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73 『愚かで滑稽な裸の王さま』のガチ勢

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 おチビちゃんが黎桜を抱いて浴槽に言った後、マリンソフィアはアルフレッドを自室に招いてお話をすることにした。

「ねえ、アル。わたくしね、あの仔黎桜に今回の王太子殿下への嫌がらせでお役目を与えようと思うの」
「役目?」

 不思議そうに首を傾げたアルフレッドに、マリンソフィアはこくんと頷く。そして、作業室から持ち帰っていた『愚かで滑稽な裸の王さま』の最後のページを開けて見せた。

「このわんちゃんの足跡を、黎桜りおにやってもらおうと思うの」
「………つまり、その訓練を僕に付き合ってほしいってことか?」
「えぇ、クラリッサに屋根なしの馬車をパレードの速さで走らせて、あなたを王太子役にしたいの」
「つまり、足跡まみれになれということか」
「えぇ、インクまみれになってもらうわ」

 マリンソフィアは躊躇いもなく頷いた。そして、ニヤリと笑ってカラーインクを大量に取り出した。赤に青、黄色に緑、紫に黒、マリンソフィアはご機嫌にインクを揺らした。

「うふふふっ、可愛い可愛い裸の王子さまになるでしょうね。だって、こんなにたくさんのカラフルなインクをぶちまけて、身体中肉球のスタンプだらけにするのだから」
「………悪趣味にも程があるぞ」
「そうかしら?でも、大丈夫よ。あなたは王太子殿下とは違って、真っ白なシャツの上からインクまみれになってもらう予定だから」
「………………」

 マリンソフィアはそう言うと、窓から下町を見下ろした。

「やっぱり、ここからだと高いわね。黎桜が怪我をしてしまうわ」
「ーーーー………………高いところから突き落とす気だったのか………?
「? そうじゃなければ、衛兵に捕まってしまうわ」

 マリンソフィアはこてんと首を傾げた。そして、おチビちゃんが無言で入室してきて床に放した、相変わらず真っ黒でふわっふわの黎桜をぎゅうっと抱き上げた。

「こんなに可愛い仔を、処分の対象にしろってアルは言うわけ?」
「いや、そもそもそんなに可愛いんだったら、外に放たなかったらいいじゃないか!!」
「っ、で、でもっ、『愚かで滑稽な裸の王さま』を再現するには、足跡が必須よっ!!」
「………『愚かで滑稽な裸の王さま』のガチ信者が恐ろしい………………」

 『愚かで滑稽な裸の王さま』の良さが分かっていないアルフレッドに、マリンソフィアはカッと目を見開いた。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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