『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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70 黒猫のお名前

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▫︎◇▫︎

 クラリッサは、真っ黒な汚れた生き物を愛おしそうに抱いて連れて帰ってきたマリンソフィアに、即倒しかけていた。

「そ、その獣は………、」
「みゃあ!」
「? 見ての通り、可愛いにゃんこよ」

 マリンソフィアは頬ずりしそうなくらいに満面の笑みで仔猫を抱き上げ、くるんと1回ターンした。汚れきった仔猫は愛らしく鳴いてぱたぱたと両手を振った。

「それじゃあ、お風呂に入れてくれる?」
「うぐっ、」

 アルフレッドはクラリッサに憐憫の視線を与えたが、決して助け舟は出さない。マリンソフィアが、有無を言わさぬ口調で命じていたからだ。

「あの、………後輩のおチビに任せても構いませんか?」
「おチビちゃん?いいけれど、どうして?」

 クラリッサはごくんと唾を飲み込み、意を決したかのようの顔を上げ、泣きそうな顔でマリンソフィアに訴えた。

「私、シロさまの時は言えなかったのですが、猫嫌いなんですっ!!」

 シロというのは、亡くなってしまったマリンソフィアの愛猫で真っ白なもふもふの毛に、深い海色の瞳を持っていた美猫の名前だ。言われてみれば確かに、クラリッサはシロに触れたことすらなかったかもしれない。

「………じゃあ、おチビちゃんを読んできて。あぁ、でもその前に、猫が平気か聞いてから連れてくるのよ」

 マリンソフィアはそう言うと、琥珀色の仔猫の瞳をじーっと見つめた。

「アル、この仔のお名前考えて」
「え?」
「わたくし、名付けの才能が皆無らしいの。わたくしがつけたら、この仔は問答無用で、『クロ』か『琥珀アンバー』よ」

 マリンソフィアはじとっとした視線をアルフレッドに向けた。アルフレッドはあまりな名付けに口元を引き攣らせた後、じっと仔猫を見つけた。

「オス?メス?」
「………オスみたいね」

 猫の身体をぐっと持ち上げたマリンソフィアは、じーっと仔猫を見つめたあとに断言した。

「じゃあ、………『#黎桜__りお_#』、異国の言葉で『黒』って意味の『黎』って字に、花の『桜』って言う文字を合わせて『黎桜りお』。どう、かな?」
「ーー………………すごい」

 自身なさげなアルフレッドに、マリンソフィアはきらきらと瞳を輝かせた。

「すごいよ、アル!!素敵なお名前をもらえて良かったね♪ 黎桜りお!!」

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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