『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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56 クラリッサの攻撃

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 マリンソフィアはそのあと、気上にも真っ直ぐと凜とした仕草で立ち上がった。

「お顔を洗ってもいいかしら?」
「構いませんよ。お化粧は私が責任を持って直します」
「ありがとう、クラリッサ」

 マリンソフィアはそれからゆっくりと顔を洗って呼吸を落ち着けた。クラリッサに化粧を直してもらうと、穏やかに微笑む。

「クラリッサ、わたくしは少し後で行くから、王太子殿下をしておいて。もし従業員にちょっかいをかけていたら、さりげなく転がして欲しいの」
「承知いたしました」

 憔悴してしまっている主君にかわり、クラリッサは王太子のいる客室へとマリンソフィアからのお墨付きをもらっている作法で向かうのだった。

▫︎◇▫︎

「王太子殿下、失礼ながら、ソフィアさまについてご助言をさせていただいてもよろしいでしょうか」

 先にお部屋に戻ったクラリッサは、部屋に入ってすぐになんの躊躇いもなく王太子に直談判することにした。主君マリンソフィアの敵は自分の敵。主君が最も大切なクラリッサに、一切の躊躇いは存在しない。

「構わぬ」
「では始めに、ソフィアさまは愛称で呼ばれることを好んでおりません。ソフィアさまのことを捨てたソフィアさまの母親が、彼女のことをずっと本名で呼ばず、”ソフィー”と呼んでいたからです」
「………では、さっきの沈黙は母君のことを思い出したからだろうか」
「はい、最低最悪な形でソフィアさまをお捨てになった母君のことを思い出したからです」

 クラリッサは自信満々に頷いた。嘘をつく際に大事なのは、嘘と本当のことを織り交ぜ、そして嘘の部分を少しだけぼやかすことだ。クラリッサはその辺の加減がとても上手だった。だから、王太子もいとも簡単に頷いてしまう。まあ、正直で真っ直ぐな王太子は子供の分かりやすい嘘でも見抜けないだろうが。

「もう1つ、ソフィアさまは軽々しく求婚される方や、一目惚れをお嫌いです。何故なら、彼女の父親が自由奔放なお方だったからです。お陰さまで、ソフィアさまのお家は崩壊してしまうことになり、ソフィアさまは大変苦労なさって来ました。このお店を持った5歳の頃には、大人びた考えしかできないほどに、世間に揉まれていたのです」
「あぁ、だから彼女は大層美しいのか………」

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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