『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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53 話が通じない王太子

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「なっ、………と、突然何をおっしゃるの?殿。殿下は、このあたくしを捨てるっていうの?あの、野暮ったい見た目の長年連れ添って来た女を捨ててまで手に入れた、このあたくしをっ、」

 ふわふわとした腰くらいの長さのプラチナブロンドに、アクアマリンのような空色の瞳を持つマリンソフィアと王太子と同い年であるコロンは、可愛らしい顔をうるうるとさせてあざとく王太子に枝垂れかかった。

「すまない、コロン。俺は恋に落ちてしまったようだ」

 ーーーバキっ、

 マリンソフィアの手の中で、真っ赤な扇子が砕け散った。

(恋に落ちたって何!?もしかしなくともこのお馬鹿、わたくしのことを気がついていない!?まがいなりにも、16年も婚約していたのに!?)
「ということで店長さん、お名前を伺っても?」
(ということでって何よ!!まさか求婚でもしてくるつもり!?)

 マリンソフィアは顔がピクピクとなるのを必死になって抑え込みながら、美しく微笑んで回避方法を模索するが、権力を失った今、王太子に真っ向から楯突くことは厳しい。世論を味方にすることはできても、真っ向からは戦えないのだ。

「………どういうことかは存じ上げませんが、わたくしの名前はソフィアですわ。下賤の生まれですので、苗字はございません。まあでも、もう少しで入籍する予定ですので、そうすれば苗字は得られるのですが………」

 ほうっと溜め息をつきながら憂い顔を作って、マリンソフィアは予防線を張っておく。当然、馬鹿王太子に通用するとは思っていない。そもそも、これしきのことで動きを止めるような臆病者でないことは重々承知しているつもりだ。

「そうなのかー。だが、その男とは別れるがいい。なんと言っても、この、王太子たる俺が求婚するんだからな!!」
(ほら、やっぱり通じない)

 マリンソフィアは辟易としながら馬鹿の相手を続ける。だが、扇子がないことにはこれ以上の戦いは厳しそうだ。マリンソフィアはクラリッサに合図を出して新しい扇子を持って来てもらう。

「ありがとう、クラリッサ」

 これまた真っ赤な扇子を持ったマリンソフィアは、扇子を広げて口元を隠すと、悔し気にくちびるを噛み締めているコロンを見て、色々と察した。

(彼女が恋をしているのは、王太子ではなくてーーー………)

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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