『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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27 鈍っているのではなくて?

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 マリンソフィアはネロリの繊細なデザインの香水瓶を2つ手に持って、店員さんの待つ方に向かった。

「この2つも追加で包んでちょうだい。片方はお化粧道具と一緒でもう片方は別でお願い。もう片方はわたくしが自分で持って帰るからそのままで、お化粧道具と一緒の方は『青薔薇服飾店ロサ アスール』にお願い」
「『青薔薇服飾店ロサ アスール』、ですか?」
「えぇ、店長のソフィアの注文品だと言って、わたくしの書いたメモと一緒に手渡してちょうだい」

 そう言って、マリンソフィアは自分の懐にしまっていた万年筆とメモ帳を取り出し、そしてメモ帳を1枚ちぎって、万年筆でさらさらっとサインをした。流麗な書き崩し字は、見慣れた人間以外には絶対に読めない。

「しょ、承知いたしました」

 驚愕の表情をした店員さんにくすっと笑ったマリンソフィアは、店員さんの耳元にくちびるを寄せ、そっと囁いた。

「今日はどうもありがとう。今度うちのお店にいらっしゃい。そして、来たら、わたくしを呼んで。特別なお洋服を特価で仕立ててあげるわ」
「はわわっ、」

 顔を真っ赤にして耳を抑えた店員さんをくすっと笑ったマリンソフィアは、くるりと踵を返し、アルフレッドの手に自分の手を絡ませて歩き始める。

「行くわよ、アルフレッド。ランチの時間になっちゃうわ」
「………はいはい、今行くよ。ソフィアお嬢さまは相変わらず人使いが荒いようで」
「………」「いいっ!?」

 マリンソフィアは、カツカツと鳴らしていた磨き抜かれた宝石付きのきらきらとした青い10センチハイヒールの踵を、無言でアルフレッドの足に食い込ませた。彼から情けのない悲鳴が起きるが、エスコートの手を緩めることを許さない。

「あら、アルフレッド、ちょっと遅いわね。動きやすい革靴でハイヒールのわたくしと同じペースで歩けないなんて、無駄にデカい身体が油を差していないミシンのように鈍っているのではなくて?」
「いやっ、これは………、」
「これは何?」

 美しいマリンソフィアの眼力という無言の圧力に屈したアルフレッドは、渋々痛む足でエスコートのスピードを黙々とあげるのだった。
 この際、マリンソフィアにゾッコンなアルフレッドは、マリンソフィアのハイヒールで歩けるスピードを密かに気にしていたことは、言うまでもない。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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