『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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18 井の中の蛙

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「眉のメイクは、小鼻から目尻の延長線上に眉尻が来るように、ペンシルで描き足していきます。もともと眉尻が濃い場合でも理想の形に合わせて枠取りするのがおすすめですが、お客さまは細いのでしっかりと書き足していきます」
「ふふふっ、くすぐったいわ」
「ごめんなさい、我慢してください」

 さらさらと書き足されていく感触がくすぐったくて、マリンソフィアは身体を全く動かさずにくすくすと笑うという器用な芸当を披露した。

「次は、パウダーアイブロウを色混ぜして、毛の足りない隙間にのせていきます。毛並みを揃えるようなイメージで埋めると上手にできますよ」
「へー、猫のブラッシングみたいな感じかしら?」
「………ま、まあ、そうじゃないんですか?」
「うーん。表現って難しいのね」
「そうですね。難しいです」

 だいぶ昔に亡くなった愛猫を思い出したマリンソフィアは、懐かしげな表情で笑う。真っ白なもっふもふの毛並みにくりりとした青い瞳の美猫だった愛猫は、病気であっけなくたったの5歳という年齢でこの世を去ってしまった。本当に、この世は美しいものから儚く散っていくというが、その通りだとマリンソフィアは思ってしまった。

「次はどうするのかしら?」
「眉間、眉頭の毛がある部分をぼかすようにパウダーを薄くのせていきます。眉頭を濃くしてしまうと、男っぽくて強すぎる印象になってしまうので、明るめの色で薄くぼかすくらいに乗せていきましょう。まあでも、お美しいお客さまなら、男装をしても中性的な美男になりそうですよね………」

 店員さんはうっとりとした口調で、手を動かしながらため息をついた。世の中不平等すぎると聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

「お世辞は結構よ。わたくしはいくら着飾ったところで、中の上が限界。世の中美しい人間は芸術品のように美しいのだから」

 社交界でというか、意地悪な婚約者と婚約者の母親、そして愛人さまと、妬み恨みのすごい同年代のご令嬢と嫌味ったらしい年長のご婦人方の猛攻を幼少の頃からくらい続けていたマリンソフィアは、自分のことを過小評価する傾向にあった。そして、嫌がらせを全部信じてはいないにしろ、自分があまり可愛らしい容姿はしていないと信じ込んでしまっていた。

「わたくしなんて、井の中の蛙よ」

 ぼそっとした声に、アルフレッドは不服そうな表情をした。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

新作
『ふむふむ成る程、わたくし、虐めてなどおりませんわよ?』を始めました。
紹介文は
 ミルフィーユ・アフォガードは虐めっ子が原因で婚約破棄されたけれど、実は正義の味方だった!?
 この際、自分を馬鹿にしてくる血筋至上主義のおバカどもを懲らしめます!!
 さあ!泣いて喚くのよ!!
です。是非読んでみてください!!

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