『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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11 髪を整える

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 マリンソフィアはすっと立ち上がり、そしてアルフレッドに手を差し出した。腰から前にきてしまった髪を耳にかけると、アルフレッドが目を丸くする。

「………かみ、きったの?」

 呆然とした問いかけに、マリンソフィアはにんまり笑う。

「そう、切っちゃったの。邪魔だったから」
「そっか………。僕、ソフィアのさらさらした長い髪、結構好きだったんだけどな………」
「そう?わたくしは長すぎるあの髪は汚らしいと思ってたんだけど」

 アルフレッドに髪をさわさわとされたマリンソフィアは、居心地悪そうに視線を彷徨わせる。顔が心なしか赤くなっている気がする。

「そう、なんだ。いつ切ったの?」
「昨日の夜。思い立ったが吉時って思って、ナイフでスパッと」
「は?」
「?」

 呆然としている彼に、マリンソフィアは怪訝そうな顔をする。なにを驚く必要があるのだろうか。

「………はあー、ザンバラだなーっては思ってたけど、まさか自分で自分の髪を束ねてナイフで削ぎ落としたの?」
「そうだけど?」

 彼はなおのこと大きな溜め息をついてマリンソフィアの手を借りずに立ち上がり、マリンソフィアが座っていた席の真前の席にどかっと腰を下ろした。

「………ハサミ、ある?」
「? あるわよ。裁縫用でいい?」
「この際ハサミならなんでもいい」

 そう言ったアルフレッドに、マリンソフィアはハサミを手渡した。

「髪、整えるから絶対に動かないでね」

 マリンソフィアは目を見開いて戸惑った。

(髪を整える?誰の?彼の?え、でも、彼立ち上がってわたくしの方に来ているわよ!?)

 ーーーさくっ、

 マリンソフィアが動けなくなって固まっているうちに、アルフレッドは彼女の癖がつかない真っ直ぐでサラサラな髪を手櫛で整えてささっと切り始めた。

「はい、完成」

 数分にも満たぬ行為の末、アルフレッドは満足そうに頷いた。

「ほら、鏡の前に行けよ。綺麗になったぞ」

 マリンソフィアは不安そうに彼を見遣ってから立ち上がり、大きな全身が映る鏡の前に立った。
 するとそこには、胸より下の腰の長さでふんわりと切り揃えられた真っ白な髪に、サファイアのような瞳、そして青薔薇のような洋服を纏った少女が立っていた。胸元には、彼からもらったネックレスが………、

(!? ね、ねねね、ネックレスが丸見えだわ!!アルフレッドに気づかれちゃう!!)

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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