『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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9 マリンソフィアの首飾り

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 もうマリンソフィアは、美しい輝かな日の当たる場所に出るつもりは全くない。だから、可愛いものや綺麗なものはもう一切要らないのだ。

「はあー、」

 全てを諦めたような溜め息をついたマリンソフィアは、自分の首にかかっている幼い頃からずーっと大事にしているネックレスに愛おしそうに触れた。かれこれもう10年以上毎日付け続けている。

「アルフレッド………」

 幼馴染にもらった大切なプレゼント。
 小ぶりのルビーを削って作られた大輪の美しい薔薇型のネックレスは、プラチナでできたチェーンで繋がれている。始めて母親と一緒に下町に出た時に出会った、今になっては大事な幼馴染の少年がくれたものだが、正直に言って、普通あの年齢で持っていていいものじゃない。というか、普通持っていない。
 美しく削られたルビーに、プラチナの金具とチェーン。とてもではないが平民に買える代物でもない。

「はやく、片付けなくちゃ。わたくしには、大事な大事なこのネックレスがあるもの」
(まあ、口が裂けてもアルフレッドには絶対に言えないけれど)

 マリンソフィアは右の人差し指を使い、優しい手つきでしゃらんと首飾りを撫でた後、すうっと瞼を閉じた。

「よし、着替えよう」

 マリンソフィアは部屋の備え付けに入れていた真っ青な青薔薇のようなワンピースに着替え、ドレスを店の再利用品に回すようにしている装飾品をまとめた場所に置いた。

 ーーーコンコンコン、

「どうぞ」
「失礼します。あら、お着替えなさったのですね」
「えぇ、気が向いたから」

 自分で塗った服を始めて着たマリンソフィアは、くるんと回って見せた。社交界ダンスとしていっぱい練習したこともあり、結構上手に回れたはずだ。

「どうかしら?」
「いいかと思います。それから、お客さまです」

 『お客さま?』と言いたいのを我慢して、マリンソフィアはすっと背筋を伸ばした。

「朝食を食べながらで良いということですので、」
「お通ししなさい」
「はい、どうぞお入りください」

 クラリッサの言葉を受けて入ってきたのは前に見た時よりも大きくなった、見た目麗しい黒髪に真っ赤な瞳の青年だった。

「久しぶり、可愛い可愛い僕のプリンセス、ソフィア。かれこれ3年ぶりかな?」
「ある、ふれっど………」

 マリンソフィアの口から小さな呻き声のようなものが漏れた。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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