『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜

桐生桜月姫

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2 勘当

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 真っ白な白亜の城のような屋敷を前に、御者はいつも通り感嘆のため息を漏らしてしまう。それを合図に、マリンソフィアは御者の手も借りずに、ひらりと馬車から飛び降りる。似合わない濃い緑色の露出度の高いマーメイドラインのドレスの裾が、マリンソフィアの動きに合わせて華やかに舞い踊る。

「ふんふふ~ん、あ、御者!後ですぐにまた馬車を出してもらうから、このまま待っておいて。わたくし、今から勘当されくるから!!」
「え!?」

 やっぱりお嬢さまはストレスで頭がイカれてしまったようだと考えた御者は、けれど雇い主の娘に強く出ることができず、そのまま立ち尽くすことしかできない。

(俺の残業手当、ちゃんと出るのかな………)

 マリンソフィアは御者に背中を見送られながら、意気揚々と屋敷に全力疾走して行った。ハイヒールをものともしない走りっぷりに屋敷内の使用人が目を見開くのもお構いなしに、マリンソフィアは自室に飛び込んで金目のものを全部大きな旅行鞄にぐしゃぐしゃと突っ込んで、窓からぽいっと外に出した。これで屋敷から出ていけと父親に怒鳴られても、身につけた物だけでお屋敷を出て行かずに済む。

 ーーーがんっ!!

 恰幅のいい丸々ころころした成金根性しか見えない真っ赤な顔をした男が、扉を破壊するように入ってきた。マリンソフィアはノックもせずに、自室に不躾に入られたのにも関わらず、喜色満面に舞い上がった。

「マリンソフィアっ!!」
「あら、お父さまご機嫌よう!!愛人さまとのイチャラブのお時間を邪魔してしまい、ごめんなさい!!わたくし、このままさっさと出ていこうと思いますので、さっさと勘当にしてくださいませっ!!」

 ばっと頭を下げたマリンソフィアは、頭を下げることを心底嫌っているはずなのに、今は頭を深々と下げてもご機嫌そうだ。

「はあ!?」
「だってお父さま、わたくしが婚約破棄されたって聞いて本当のことを確かめに来たのでしょう?婚約破棄は本当よ!!ねえ、お父さま、わたくしを勘当して!!今は、『無能』、『金食い虫』、『さっさと死ね』って文句を言い続けている娘を追い出す絶好のチャンスなのよ!!ねえほら、早く!!」
「あぁ、もう、うるさい!!勘当すればいいのだろう!?ほら、今からお前は私とは赤の他人だっ!!さっさと出て行け、この無能のポンコツが!!」
「はーい!!」

 マリンソフィアは意気揚々とスキップをしながら屋敷の外に出た。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

今日はあと1話更新予定です。
14時を予定しています。

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