上 下
12 / 19

1人目のお客様 12

しおりを挟む
「?なんと言ったのだ?」

「……聞き取れなかったのならそれで良いわ。あと、私は同じことを2回言う気はないから、1回で必ず聞き取ってくれる?」

 雅楽は僅かな微笑を浮かべながらこてんと小首を傾げた。
 揺尾は引き攣った笑みを浮かべてやがて大きく息を吐いた。

「そなた、そんな態度ばかり取っておっては早死にするぞ。」

「安心してちょうだい。私、こう見えてもお嬢様だから、こんな態度でも誰も文句を言えないし、下手しもてに出られた方が困るから、こっちの尊大な態度の方が向こうにとってはいいの。」

 豊とも貧相とも言えない胸を張って雅楽はえっへんと言い切った。

「……そなたのその絶対的な自信はどこから湧いてくるのだ……?」

「……。」

 一瞬にして無表情に戻った雅楽は何も言わなかった。無言というのが答えなようで、一切の答えになっていなかった。

「……そろそろ願いを叶えるかな。」

「……助かるわ。」

「うむそうさせてもらおう。

 『我に連なりし眷属達よ、彼の者の願いを叶えるために顕現したまえ。現世を彷徨いし、隔離世の生物と話す力を彼の者に分け与えたまえ。ーー“妖華”ーー』

 ……。」

「っ!」

 ぶわりと大きな霞に巻かれ、雅楽はとっさに目をぎゅっと瞑って腕を前へやった。
 パラパラパラパラと沢山の本が捲れるけたたましい大きな音と、揺尾の呪文のような不可思議な力の籠った静かで平坦な声音が『あやかし書堂』に響き渡り、その場を支配した。

「「……。」」

 僅かな時間、『あやかし書堂』に夜の闇のような暗くて寂しい静寂が訪れた。

 本が、本棚が、雲が、光が、灯火が、雅楽と揺尾以外の全てのものが、霧散して無に帰った。帰って行った。跡形もなく消えてしまった。

 やっとのことで目を開けられた雅楽はそのことに気がついて絶句した。闇だけが支配する空間はただただ恐怖しか無いはずなのにどこか懐かしく、雅楽の心を温めた。

ーーあぁ……、これでが分かった……。私は、否、わたくしは……。ーー

 憂いを帯びた瞳をゆっくりと閉じた雅楽の瞳に次に映ったのは先程消えたはずの『あやかし書堂』だった。明るくて暖かくて心地がいい、摩訶不思議な『あやかし書堂』だった。

「……そなた、……そなた、今我の虚無空間に入らなかったか?」

「……虚無空間?そんなの知らないわ。」

 雅楽は苦しそうな顔を隠せていない無表情と僅かに震えた情け無い声音で答えた。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹
キャラ文芸
【第四回キャラ文芸大賞 激励賞頂きました。ありがとうございますm(_ _)m】  真っ白なお城の隣にある護国神社と、小さな商店街を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の小さな本屋があった。  今時珍しい木造の建物で、古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋だ。  売り上げよりも、趣味で開けているような、そんな感じの本屋。  本屋の名前は【神楽書店】  その本屋には、何故か昔から色んな種類の本が集まってくる。普通の小説から、曰く付きの本まで。色々だ。  さぁ、今日も一冊の本が持ち込まれた。  十九歳になったばかりの神谷裕樹が、見えない相棒と居候している付喪神と共に、本に秘められた様々な想いに触れながら成長し、悪戦苦闘しながらも、頑張って本屋を切り盛りしていく物語。

こんこん公主の後宮調査 ~彼女が幸せになる方法

朱音ゆうひ
キャラ文芸
紺紺(コンコン)は、亡国の公主で、半・妖狐。 不憫な身の上を保護してくれた文通相手「白家の公子・霞幽(カユウ)」のおかげで難関試験に合格し、宮廷術師になった。それも、護国の英雄と認められた皇帝直属の「九術師」で、序列は一位。 そんな彼女に任務が下る。 「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」 失敗したらみんな死んじゃう!? 紺紺は正体を隠し、後宮に潜入することにした! ワケアリでミステリアスな無感情公子と、不憫だけど前向きに頑張る侍女娘(実は強い)のお話です。 ※別サイトにも投稿しています(https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278)

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-

橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。 心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。 pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。 「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...