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「……それがなんだと言うのだ?我にはまださっぱりだぞ?」

 揺尾は着流しの袖に両手を突っ込んで小首を傾げた。

「まだ分からないの?」

 雅楽はやれやれと言った雰囲気で揺尾を見やった。

「よーく考えてみれば簡単なことよ?」

「……我は降参だと言っておる。くと話せ。」

 揺尾は心底不本意だと言う声音と表情で不貞腐れたような、どうにでもなれというような、そんな雰囲気で言った。

「要約すると、私の願いはあなたの言うように『死んだ生き物と話す力を頂戴。』になるわよね。」

「あぁ。」

「じゃあ、ここで必ず1つ大きな疑問にぶつかるはずよ。」

 雅楽は優雅な雰囲気で勿体ぶるようにここで言葉を切った。
 揺尾はそんな雅楽の様子に待ち切れんとばかりにじーっと雅楽を凝視した。

「どうして“死んだ生き物を見る力を望まないのか”ってね……。」

 雅楽は作り物のような笑みを顔に張り付けて揺尾を見やった。

「成る程……。だが、死んだ生き物と話すためには見ることも必要だ。だから、それらは普通セットだという認識になるのではならないか?」

 揺尾は納得し切っていないようで不思議そうに尾を揺らしていた。

「じゃあ、ここでもう1つ言うわね。なんで私は死んだ生き物が現世うつしよに留まっていることを知っているの?」

「!?」

「ふふふ、流石のあなたもここまで言えば分かるわよね?」

「……あぁ。そなたはーーーー」

「ーーーーそう、私は世にも珍しい生まれつき妖怪もののけが見える体質の特殊な人間よ。」

 雅楽は揺尾の発言に被せるようにして自嘲の混ざった声音で言った。

「あ……ぅ……。その……。」

「ふふふ……、あなたが気にするようなことは何一つとしてこの場に存在なんてしていないかしら。
 これは前世で悪ーいことをした私への神さまからのささやかな呪いであり、罰であり、罪の証よ……。だから、これは私が必ず1人で背負わなければいけない大切な代物よ。それがたとえ、どんなに辛かろうが、痛かろうが、苦しかろうが、憎らしかろうが、ね……。」

 雅楽は悲しそうに微笑んだ。しれは、仮面ではない本物の笑みだった。

 それが、その儚い微笑みが、何故か揺尾の瞳にはとても、とても懐かしく、忘れ去ってしまい、思い出そうにも深い霞がかかり、決して思い出すことのできない、遥か昔己が大切にしていたもの女性のように映った。

(は……君は一体誰なのだ……。深く、深く我の心を揺らし、苦しめるそなたは一体何者なのだ……。今尋ねたらそなたは答えてくれるのだろうか……?)

 そんな静かな叫びを心の中で上げる揺尾は心中にある疑問もとは全く違う残酷なことを尋ねた。

「……。なれば、何故そなたはこの場で我に願いをたてまつった?罪をあがないたいのであれば、そなたは今この場で願いを申してはならなかった筈だ。何故、何故そなたはそんな願いを奉った?」

 揺尾の声音はどこか拠り所のない悲しいものだった。

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読んでいただきありがとうございます♪♪♪

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