上 下
158 / 160
続編

80 わたくしは笑い合う

しおりを挟む
▫︎◇▫︎

「んっ、」

 寝返りが打てずに狭くて重い感覚に苛まれたわたくしは、不服ながらも眠たい身体を叱咤して、ゆっくりと寝台から起き上がった。

「………?」

 目の前には上半身の男。
 わたくしは一瞬だけぼーっとしながらも、目をぱちぱちとさせた瞬間にこの状況にあんぐりと口を開ける。

「~~~~~ーーーー………、はああああぁぁぁぁぁぁああああ!?」
「………ぅん、………うるさい………………」
「う、うるさいじゃなくってよ!?」

 ーーーパチンっ!!

 わたくしの平手打ちが見事なまでにクリティカルヒットしたライアンは、その後渋々寝台から起き上がって、6つに割れた腹筋をと眠たそうな氷の瞳を晒し、少しだけ長くなった寝癖つきの夜空を溶かしたかのような藍色の髪を後ろにかきあげた。

「………もうちょっと寝かせろよ………………」

 久方ぶりに聞いた粗雑な言い分にキュンとなりかけたわたくしは、慌てて首を横に振って彼を怒鳴りつける。

「ちゃんと、ーーーちゃんと服をきなさあああぁぁぁあああい!!」
「………うるさい………………」

 文句を言いながらもシャツを羽織ったライアンは、わたくしのことをぎゅっと抱きしめた。

「………ディアの匂いだ………………」
「お前は犬なの?」
「う~ん、………ディアに甘えられるなら、犬でもいいかも?」

 へにゃっと笑ったライアンの額にコツンとデコピンをしたわたくしは、ぷいっとそっぽを向いて、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。

「………犬じゃなくても、少しだけ、少しだけなら甘えさせてあげるわ」
「?」
「あぁーもう!!聞こえなかったのならば、そのまま知らなくてもいいわ!!ほら、さっさと帰るわよ!!」

 わたくしがぐいっと彼の腕を引っ張って笑いかけると、彼は少しだけ赤く染まった頬で穏やかに微笑んだ。初めて見たに近い、彼の花の綻ぶような微笑みにドギマギしながらも、わたくしは彼に満面の笑みを向ける。

「じゃあ、わたくしたちのお家に帰りましょう」
「あぁ、そうだな。
 ………お許しも出たことだし、帰ってから甘えるとしよう」

 ライアンの言葉を聞く前に走り出したわたくしは、彼の言葉を聞き取ることができなかったけれど、なんだか嬉しそうな彼の雰囲気に、わたくしも嬉しくなってしまうのだった。
 惚れた弱みというのは、とてつもなく厄介なようだ。

********************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,523pt お気に入り:7,083

すれ違い夫婦の不幸な結婚

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:25

お父様が、女性と女の子を連れて帰って来た。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:785

女装令息と性癖を歪められた王子

BL / 連載中 24h.ポイント:631pt お気に入り:208

社畜系公爵令嬢は、婚約破棄なんてどうでも良い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:3,288

処理中です...