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続編

78 妖しい色

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「………ばか、………ばかばか、………ばかばかばかばかばかばか!!」
「うん、」
「ばか、ばかばかばかばかばかばばかばか!!」
「………ごめんね?」
「知らない。………馬鹿な義弟なんて、わたくし知らないんだから!!」

 お弁当箱を机に置いて、思いっきりよく拳でライアンの胸を殴りつけたわたくしは、別れる前よりもずっとずっと厚くなって、それでいて頼り甲斐満載になった彼の胸に、ぽすっと倒れ込んだ。

「俺は“ディアの”じゃなくて、“ディアの”なんだけど?」
「………知らないわ」

 不服そうな色気たっぷりの声に頬を染めたわたくしは、ぷいっとそっぽを向く。

「あ~………、で?ディアはこのままこの部屋にこもってて言い訳?」
「はあ?」
「え、いや、その………、」

 冷酷な声音なのに優しい響きを感じられる声は別れる前と何1つ変わらなくて、そんなことがちょっとだけ嬉しくて、わたくしは頬を赤く染めてしまう。真っ赤な髪に隠れていることが不幸中の幸いだと思いながら、わたくしはずいっとライアンの顔の真ん前に顔を持っていく。

「はっきりと言いなさいな。お前は男なのでしょう?」
「………なおのこと言えなくなった」
「はあ?」

 わたくしの声に不服そうに頬を膨らませる彼を見つめながら、わたくしは明日からの予定をパンパンと頭の中に弾き出していく。

「明日にはもう公爵邸に戻るのよ?お義母さま、地味にあなたのことを心配していたんだから」
「………明日なのか?」

 怪訝そうに尋ねてくるライアンを睨みつけたわたくしは、夜の10時を指している時計を見た後にこくんと頷いた。

「えぇ、そうよ。………あなた、まさかとは思うけれど、こんな夜中に、今から帰るなんて馬鹿げたことをしようとしていたわけではないわよね?」
「………………、」
「あっきれた。無理に決まっているでしょう。馬鹿ライアン。わたくし、見損なったわよ」

 ぷいっとそっぽを向いて、ライアンがわたくしのご機嫌取りに走るのを待っていると、ライアンがガサゴソとなにかをし始めた。そっぽを向いているせいで何をしているのかが分からないことが致命的だ。

「………馬鹿はそっちだ、ディア。飢えた獣の前に、堂々とその成熟した身体を晒すなんて、自殺行為だよ?」

 ーーーちゅっ、

 久方ぶりのキスは、濃厚で息をも失う、妖しい色気を含むものだった。

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