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続編

56 わたくしの色彩を失った日々

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 わたくしは靴擦れがひどくなるからという理由で出来るだけ身につけないようにしていた高いピンヒールでいつものお散歩の道をカツカツと歩く。足の小指と踵に激痛が走るが、それもお散歩を終える頃には気にならなく、否、痛みがわからなくなっていた。

「ははっ、………存外、頑張れば人間って、無茶でも、無謀でも、なんでも出来るものね。馬鹿らしい」

 虚しく呟くと、次は朝食の時間だ。ライアンのお部屋で食べない朝食はなんだか虚しくて味がしなかったが、それでも綺麗さを意識して黙々と食べると、わたくしの天敵クロワッサンのパンクズを落とさずに、綺麗にクロワッサンを平らげることができた。嫌がらせの一環だとは言え、わたくしはとても情けないことをしていたのではないかと、なんだか自嘲してしまう。

 わたくしはここ数年、おかしくなっていたのではないだろうか。

 変なことが思考に蔓延り始めて、それでも何も止めることも止めることも出来なくて、わたくしは必死になってがむしゃらにお勉強に励む。そうすれば、要らないと感じられ、そしてごちゃごちゃと頭の中に蔓延る全ての邪魔で仕方がない思考を、楽にでいて端的に排除できるから。
 わたくしがこうしなければならなくなった理由は、幾つも心にあたることがある。亡くなったお母さまの使っていた謎の言語に、ライアンを追い出してしまった事件、そして最近増えた次期党首たるわたくしが気に入らない人間からの、わたくしへの心無い誹謗中傷だ。どれもわたくしの心をぐさぐさと鋭い刃物で刺し、そしてぐちゃぐちゃにかき混ぜる。感情さえもよく分からなくなって、そしてわたくしは何をやっているのか分からないまま、どんどん白黒に染まった日常を過ごしていく。

 1日、また1日と虚しくて悲しい、色を失った日々が過ぎていく。

 ライアンがいない日々は味気なくて、苦しくて、生きた心地がしない。こんな空虚な感情に振り回されるのは、お義母さまとライアンがくる以前以来のことだろう。わたくしは方っとため息をついて、秒単位でぎりぎりに詰め込んだはずなのに、どんどん先をいくお勉強内容を教本にメモしながら、学習を進めていく。パーティーや夜会にも積極的に参加して、わたくしという人間を認めてもらおうと努力する。
 けれど、努力を重ねれば重ねるほど、わたくしはどんどん虚しくなってしまった。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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