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38 わたくしの誕生日

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 わたくしが倒れた日からちょうど3週間後の8月23日、わたくしは朝からとっても憂鬱な気分だった。

「お召し物は………」
「濃紺、もしくは黒のものを用意して。飾りはなしでできるだけ地味なものを」

 8月23日、この日はわたくしの誕生日であり、そしてお母さまの命日でもある。毎年この日、屋敷のものはできるだけ喪に付して過ごす。人脈のあったお母さまの死を悼む人は社交界にもいっぱいいるそうだ。

「………9歳のお誕生日、おめでとうございます」
「………………………ありがとう」
「………………」

 本当は嬉しくなんかない。だって、これはわたくしがお母さまを殺して9年のうのうと生きてきた証だから。誕生日を迎えるたびに怖くなってしまう。わたくしのことを、お母さまは恨んでいるのではないか、憎んでいるのではないかと。

「今日はお散歩も中止。お義母さまとライアンに伝え、」

 ガンッ!!

 パーン!
 キラキラー、シャラシャラー、

「ハッピーバースデー!!ディア!!」
「………………」
「ほら、言ったじゃないか、母上。ディアのお誕生日は普通にお祝いした方がいいって」
「えー、でもー!!」
「朝からごめん、ディア。母上がどうしてもディアに1番乗りでお祝いしたいって」

 わたくしは何が何だか分からず、今なお喪服姿で立ち尽くしている。
 ひとまず整理しようとどうにか頭を回転させ、1から起こったことを順に思い出した。

 1.扉が大きな音を立てていきなり開いた。
 2.お義母さまが小さなくす玉?のようなものを弾けさせて、その反動で沢山の色鮮やかな紐とキラキラした紙吹雪が舞った。
 3.ライアンの魔法によって出された氷の結晶が美しく輝きながら舞い散った。

 ………………何が起こったのか、さっぱり分からない。というか、頭が理解を拒む。

「ディア、大丈夫か?」
「え、えぇ。………問題ないわ」
「そっか、よかった。改めても誕生日おめでとう、ディア」
「………………ん、ありがとう」

 努めて美しく、そして本心からの言葉に見えるように表情と声音に気を使った。

「で?ディアはなんでそんな格好をしているの!!今日はあなたが主役でしょう?主演女優でしょう!?なんでそんな地味な格好なの!!さっさと着替えなさい!!」
「え、あ、………………」

 お義母さまはわたくしの誕生日が毎年どのようにして終わっていくのかを知らない。だから、今日も明るい色彩のドレスを美しく身に纏っている。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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