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33 お見舞いに来たのは

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▫︎◇▫︎

 Side. クラウディア

 次に目が覚めると、お医者さまが立ち去った後だった。お部屋の気温が下がっていることもあり、だいぶ身体が楽になっている。

「過労とストレスだそうです。しばらくは休息に専念してください」
「………無理なおねがいね。お勉強道具をもってきて」

 メアリーに身体を濡れタオルで拭ってもらった後、着替えさせてもらいながら、わたくしは言った。相変わらず、微笑み以外浮かべられないお顔は苦痛に歪まない。

 コンコンコン!

「メアリー、今は大丈夫?」
「あと、5分お待ちください。お着替えの途中ですので」
「分かった。入れるようになったら言ってくれ」

 わたくしは何故こうまでしてライアンがここに訪れてくるのか、さっぱり分からなかった。彼についてわたくしが知っていることといえば、わたくしと同じで表情を変えられなくて、毎晩ここに来てくれていて、そして虫が好きで、魔法が得意で、賢くて、お顔がびっくりするくらいに整っていて、声がガラスのように澄んでいて、あとあと、甘いものが得意じゃなくて、女の子物のお洋服がびっくりするくらいに似合うことぐらいだ。

「ふぅー、」

 身体を起こしているのはメアリーなのにも関わらず、布団に下ろしてもらうと、一気に疲労が身体を突き抜けた。本当に不便で仕方のない身体だ。

「もういいわ、ライアンをこのお部屋に入れてちょうだい」
「………承知いたしました」

 やっぱり今のわたくしは舌ったらずだ。上手く言葉を発することができない。ライアンにこういう情け無い姿を晒すのは心底癪で仕方がないが、心配をさせているのならば、お部屋に通すのが礼儀だろう。

「失礼します。ディア、お加減は?」
「………だいじょうぶに見えるのならば、あなたの目はふしあなね」
「ごめん」

 今日だけで一気に気安くなった関係は、存外心地が良かった。ムカつくし、イラつくし、ライバルなのに、彼は無表情でヘラヘラ笑っているように見える。

「これ、お花。お見舞いに」
「!! ん、ありがとう」

 腕いっぱいに美しいすみれのお花と少しだけ淡い色彩のトゲをきっちりと処理した薔薇に、わたくしは一瞬目を見開いた。

「………どうしてすみれとばらなの?」
「壁紙がすみれと薔薇だったから」

 ライアンの言葉に少しだけ安心したわたくしは、ホッと息を吐いた。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

『男前な男装皇女は小動物な悪役令息をお望みです』

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