上 下
122 / 144

121 優奈に捕まる

しおりを挟む
▫︎◇▫︎

「おつかれ、久遠」
「………とっととくたばれ」
「は?何でそんなこと言われないといけないわけ?」

 1時間目の終わり、隣の席に座っている立花に罵倒を吐かれた立花は、イラッとした口調で心菜に満面の笑みを浮かべた。笑顔ほど恐怖の顔面武器は無いと思った心菜は、けれども表情や態度を変えることなく立花に話しかけ続ける。

「………あんたのせいで、ゆーなちゃんからの質問攻めにあったって言ったら、事情がわかる?」
「あぁー、そういうことか」

 妙に納得顔で頷いた立花は、そのあとにやっと笑ってひらひらと手を振る。

「俺、ちょっくらトイレ行ってくるわ。じゃあ、、久遠」
「?」

 心菜の疑問はすぐに解かれることとなった。

 ーーーがんっ、

 なぜなら、ものすごい勢いで優奈に後ろから抱きつかれたからだ。イヤな予感がすると思いながらも、心菜は恐る恐る後ろを振り返った。

「こ~こな♪続き聞かせてほしいな~って!!」
「………………ゆーなちゃんに話すことは何にもないわ」
「まーまー、冷たいこと言わずに!!」
「な、ないって!!」

 押し問答を続けること10分、2時間目の授業開始を告げるチャイムが鳴って、心菜はほうっとため息をついた。

(ほ、本が読みたかった………!!)

 ぐーっと拳を握りこむと、飄々とした仕草で席にまで戻ってきた立花が、心菜の様子を見遣ってきた。

「おつかれ、久遠」
「………おつかれ?卑怯者は、次の休み時間に痛い目を見るべきね」

 にこっと笑った心菜は、次の休み時間は立花に優奈を押し付けようと決意した。
 そして、得意な数学の授業の後、心菜はトイレに猛ダッシュした。

「あっ、ちょ、おいっ!!」

 立花の静止なんて絶対に聞かない。心菜はあっかんべーしながらトイレまで全力疾走をした。

「おいっ!久遠!!廊下は走るな!!」
「は、は~い!!」

 肩をすくめた心菜は、次の瞬間にはゆっくりと歩き始めた。

(もうここまでくれば大丈夫だよね………?)

 トイレの前でのんびりと休み時間を過ごした心菜は、チャイムギリギリに教室に戻ってきた。

「………末代まで呪ってやる」
「ふふふっ、呪えるものなら呪ってみれば?」
「俺の先祖、陰陽師なんだぜ?」
「へ~、」
(嘘くさ)

 心菜は曖昧に頷きながら社会のノートを取り出して、授業の復習を始める。

「ま、嘘だけ」
「でしょうね」

 ーーーキーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

 いつもながらにタイムリーなチャイムさんは、正常なお仕事をしてくれた。

********************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

久野市さんは忍びたい

白い彗星
青春
一人暮らしの瀬戸原 木葉の下に現れた女の子。忍びの家系である久野市 忍はある使命のため、木葉と一緒に暮らすことに。同年代の女子との生活に戸惑う木葉だが……? 木葉を「主様」と慕う忍は、しかし現代生活に慣れておらず、結局木葉が忍の世話をすることに? 日常やトラブルを乗り越え、お互いに生活していく中で、二人の中でその関係性に変化が生まれていく。 「胸がぽかぽかする……この気持ちは、いったいなんでしょう」 これは使命感? それとも…… 現代世界に現れた古き忍びくノ一は、果たして己の使命をまっとうできるのか!? 木葉の周囲の人々とも徐々に関わりを持っていく……ドタバタ生活が始まる! 小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

想い出と君の狭間で

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
青春
 約一年前、当時付き合っていた恋人・久瀬玲華から唐突に別れを告げられた相沢翔。玲華から逃げるように東京から引っ越した彼は、田舎町で怠惰な高校生活を送っていた。  夏のある朝、失踪中の有名モデル・雨宮凛(RIN)と偶然出会った事で、彼の日常は一変する。  凛と仲良くなるにつれて蘇ってくる玲華との想い出、彼女の口から度々出てくる『レイカ』という名前、そして唐突にメディアに現れた芸能人REIKA──捨てたはずの想い出が今と交錯し始めて、再び過去と対峙する。  凛と玲華の狭間で揺れ動く翔の想いは⋯⋯?   高校2年の夏休みの最後、白いワンピースを着た天使と出会ってから「俺」の過去と今が動きだす⋯⋯。元カノと今カノの狭間で苦しむ切な系ラブコメディ。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

処理中です...