上 下
116 / 144

115 恐怖の学校

しおりを挟む
 立花は心菜のそんな不躾な様子に気を悪くするでもなく、困ったように肩をすくめた。

「ちょっと手が滑っただけだって。次は上手くやるから………」
「やらなくて結構。荷物運びの人材が足りていないらしいから、そっちを手伝ってくれると助かるのだけれど」
「ん、すまん。りょーかい」

 存外簡単にいうことを聞いてくれる立花の背中を見送って、心菜は自分の作業に戻る。的に色を塗るという作業は、ちまちました作業が好き且つ得意な心菜には、ぴったりな作業だった。

「うげー、これ、納期までに終わるかな?」
「終わる終わらないじゃない。終わらすの」

 ゆっくり丁寧すぎるぐらい丁寧に色を塗っている優奈に圧力をかけながら、心菜はちょっとだけ雑めに色を木の板に置いていく。存外、雑に塗っても、遠くから見ればわからないもので、心菜はそれをいいことに結構はみ出して塗っていた。

「………お前、前から思ってたけど、結構脳筋だよな」
「そう?そんなことはないと思うけど………」
「いいや、面倒くさがりな俺が言うんだから間違いない」
(いや、それ信用できないでしょ)

 心の中だけで突っ込んだ心菜は、次々に手を動かしていく。

「ん、できた」

 外が真っ暗になり始めた頃に作業を終えた心菜は、時計を見てびっくりしてしまった。なぜなら、2時間も集中してたの声に一切惑わされずに作業していたからだ。

「ふぅー、」

 一息だけついて作業のために使っていた絵の具を片付けると、心菜は急激に背筋に冷水を掛けられたかのような感じを抱いてしまった。10月の夕暮れとは早いもので、6時なのにも関わらず学校内は真っ暗で、それでいて、学校内は閑散としてしまっている。作業が残っている子以外に先生しか残っていない学校、それは正直に言って恐怖しか抱くことのできない光景だった。
 ぞくぞくと背中に嫌なものが走って、心菜はきゅっと目に涙を溜めてスカートの裾を握った。

「………こわくない、こわくないこわくない、こわくないこわくないこわくないこわくないこわくないこわくない………こわく、ない?」

 呪文のように『怖くない』という言葉を呟きながら、教室を施錠して職員室に鍵を返し、下駄箱のある1階まで降りてきた心菜は、目の前に一瞬だけ映った陽炎のように揺れていた影にビクッと身体を揺らした。

「ーーー今のって………、お、お、おば………け?」

 言うや否や、心菜はカタカタと震えながら、顔を真っ青に染め上げる。

「ひ、ひぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

********************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

光属性陽キャ美少女の朝日さんが何故か俺の部屋に入り浸るようになった件について

新人
青春
 朝日 光(あさひ ひかる)は才色兼備で天真爛漫な学内一の人気を誇る光属性完璧美少女。  学外でもテニス界期待の若手選手でモデルとしても活躍中と、まさに天から二物も三物も与えられた存在。  一方、同じクラスの影山 黎也(かげやま れいや)は平凡な学業成績に、平凡未満の運動神経。  学校では居ても居なくても誰も気にしないゲーム好きの闇属性陰キャオタク。  陽と陰、あるいは光と闇。  二人は本来なら決して交わることのない対極の存在のはずだった。  しかし高校二年の春に、同じバスに偶然乗り合わせた黎也は光が同じゲーマーだと知る。  それをきっかけに、光は週末に黎也の部屋へと入り浸るようになった。  他の何も気にせずに、ただゲームに興じるだけの不健康で不健全な……でも最高に楽しい時間を過ごす内に、二人の心の距離は近づいていく。 『サボリたくなったら、またいつでもうちに来てくれていいから』 『じゃあ、今度はゲーミングクッションの座り心地を確かめに行こうかな』  これは誰にも言えない疵を抱えていた光属性の少女が、闇属性の少年の呪いによって立ち直り……虹色に輝く初恋をする物語。 ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』でも公開しています。 https://kakuyomu.jp/works/16817330667865915671 https://ncode.syosetu.com/n1708ip/

ペア

koikoiSS
青春
 中学生の桜庭瞬(さくらばしゅん)は所属する強豪サッカー部でエースとして活躍していた。  しかし中学最後の大会で「負けたら終わり」というプレッシャーに圧し潰され、チャンスをことごとく外してしまいチームも敗北。チームメイトからは「お前のせいで負けた」と言われ、その試合がトラウマとなり高校でサッカーを続けることを断念した。  高校入学式の日の朝、瞬は目覚まし時計の電池切れという災難で寝坊してしまい学校まで全力疾走することになる。すると同じく遅刻をしかけて走ってきた瀬尾春人(せおはると)(ハル)と遭遇し、学校まで競争する羽目に。その出来事がきっかけでハルとはすぐに仲よくなり、ハルの誘いもあって瞬はテニス部へ入部することになる。そんなハルは練習初日に、「なにがなんでも全国大会へ行きます」と監督の前で豪語する。というのもハルにはある〝約束〟があった。  友との絆、好きなことへ注ぐ情熱、甘酸っぱい恋。青春の全てが詰まった高校3年間が、今、始まる。 ※他サイトでも掲載しております。

プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。 父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です *進行速度遅めですがご了承ください *この作品はカクヨムでも投稿しております

[1分読書]あたしの実弟の実兄が好きなんだけど・・・血のつながりはありません

無責任
青春
実弟の実兄、だけど義兄。ちょっと複雑な家庭環境だけど・・・ 高校1年生の主人公、真田ひかり。 彼女には血のつながっている妹と弟が・・・。 その弟には、父親が別の兄が・・・。 その名は、田中信繁。 野球部のエースだ。 ちょっと複雑な関係・・・。 だから困る・・・。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

処理中です...