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110 心菜は嘘だと言ってほしい

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「はいはい、ここなは本当にねちっこいな~」
「………余計なお世話よ」

 ふんっと言いながら横を向くと、心菜は下校の準備を整える。

「さあ、帰るよ、ゆーなちゃん」

 部活が無くなった中学3年。心菜はいつも優奈と帰るようになっていた。だからこそ、今日こそは彼氏について根掘り葉掘り聞こうと思っていた。なぜなら、心菜は優奈にはぐらかされたり、先に帰られてしまったせいで一切彼氏について聞き取れていなかったのだ。

「………今日は彼氏とぉーーー」
「関係ないわ」

 にこっと笑うと、優奈が頬を引き攣らせる。

「もしかしなくとも、ゆーなちゃんの彼氏っていうのは親友たる私にも紹介できないような人間なのかしら?」
「………違うけど………………」
「じゃあ、一緒に行こっか!!」

 心菜がにこやかに笑うと、優奈は困った顔で呻き声を上げる。半泣き状態なのは、彼氏がいないからなのか、それとも心菜に紹介できないような碌でなしが優奈の彼氏なのか、心菜には理解することができなかった。
 恋愛経験値が低い心菜は、最近よく感じる疎外感のようなもどかしいものを感じながら、鞄を持ち上げて、学校を優奈とともに後にする。
 下駄箱で3年使ったことによってボロボロになった上履きと、今年になって買い替えたためにそこそこ綺麗な靴を入れ替えると、心菜は優奈に尋ねる。
 今ここにはそこまで多くの人がいるわけではないから、他人に聞かれる心配をする必要はないだろう。

「で?名前は?」
「………大鷹」
「え………、」
(それって………、)

 一瞬だけ頬を引き攣らせた心菜は、ぶんぶん首を横に振って、嫌な予感を外に追い出す。けれど、どうしても『大鷹』と聞くと彼しか頭に浮かばなくて、心菜はぶんぶんと頭を左右に振って彼の顔を頭から追い出す。

「………彼氏の名前って『大鷹裕人』だとか馬鹿げたこと言わないよね?」
「いうよ?」

 心菜は倒れたいのを必死に我慢して『うわあああぁぁぁあああ』という絶叫を心の中であげる。なんとも言えない常識はずれのおちゃらけが大好きな男が優奈の彼氏だなんて、考えたくなかった。思い浮かべることさえも嫌だった。

「………嘘だといって、………ゆーなちゃん」

 半泣きで上目遣いをしながら優奈を見つめても、優奈はにこにこ笑うばかりだった。恋する乙女は強いというが、確かに優奈は心菜にとって強敵だった。

********************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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