86 / 144
85 グループ別リレー
しおりを挟む
(?)
ぼそっとした言葉に、心菜はこてんと首を傾げた。だが、果音は何も返してくれない。それどころか、そんな心菜を横目に、果音は分かりやすく話をすり替えた。
「さあ、走ろう!!優勝のために」
「………あぁ、胃が痛い」
心菜は下を向きながらお腹に一瞬だけ手を当てて、そして果音と並んで腰に肘を当てる。
ーーーピピーーっ、ピっ、
トラックを突っ切り、本部席の前にやってくる頃には、心菜の表情から迷いが消え去っていた。そして、不敵な笑みを浮かべていた。
「さあ、いっちょ走りますか」
第1走者が出発し、大声の応援が運動場内にこだまする。心菜はそんなステージの上ではちまきの巻かれた額の上にある前髪を直しながら、自分の番に向けてトラックに入る。
練習に成果を発揮するだなんて言えるほどの練習は積めなかった。けれど、心菜の心の中には走り切るという思いしか残っていなかった。
向こうから、3位を2位にまで上げてきた果音が息を荒げて必死の形相で走ってくる。心菜は彼女に向けてふんわりと笑って、そしてととっと勢いをつけてリードを始める。絶対に後ろは振り向かない。果音を信じて、心菜はできる限り早く足を前に、そして遠くに踏み出す。右手を後ろに出したままで走るのは苦手だが、練習不足のリレーのバトンパスでは大事なことだ。
「ここちゃん!!はい!!」
「はい!!」
バトンを受け取った心菜は、思いっきり飛び出して、同じぐらいにバトンを受け取った上位3人で鍔迫り合いを行う。皆が直線ラインを全速力で走り、そして曲線に入るまでに差をつけようと躍起になる。それは心菜も同様で、抜かれないためにもつれそうになってしまう運動不足の足を叱咤して走っていた。
曲線ライン、ギリギリのところで心菜は1番に入り込んだ。後ろから追いかけられると言う恐怖と闘いながら、心菜は次の走者に渡すまでは抜かせないと体力を失い尽くした身体を動かし続ける。
(最下位ぐらいだったら、頑張らなくてもよかったんだけどな………)
半分を走ったくらいで喉にひりつく痛みを感じ始めた心菜は、心にもないことを考えて、それでも必死になって走った。
だが次の瞬間、後ろの走者に靴を踏まれて、ぐらっと心菜の身体が一瞬前に傾いた。周囲から悲鳴のような声が聞こえて、心菜はぎゅっと目を瞑った。
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
ぼそっとした言葉に、心菜はこてんと首を傾げた。だが、果音は何も返してくれない。それどころか、そんな心菜を横目に、果音は分かりやすく話をすり替えた。
「さあ、走ろう!!優勝のために」
「………あぁ、胃が痛い」
心菜は下を向きながらお腹に一瞬だけ手を当てて、そして果音と並んで腰に肘を当てる。
ーーーピピーーっ、ピっ、
トラックを突っ切り、本部席の前にやってくる頃には、心菜の表情から迷いが消え去っていた。そして、不敵な笑みを浮かべていた。
「さあ、いっちょ走りますか」
第1走者が出発し、大声の応援が運動場内にこだまする。心菜はそんなステージの上ではちまきの巻かれた額の上にある前髪を直しながら、自分の番に向けてトラックに入る。
練習に成果を発揮するだなんて言えるほどの練習は積めなかった。けれど、心菜の心の中には走り切るという思いしか残っていなかった。
向こうから、3位を2位にまで上げてきた果音が息を荒げて必死の形相で走ってくる。心菜は彼女に向けてふんわりと笑って、そしてととっと勢いをつけてリードを始める。絶対に後ろは振り向かない。果音を信じて、心菜はできる限り早く足を前に、そして遠くに踏み出す。右手を後ろに出したままで走るのは苦手だが、練習不足のリレーのバトンパスでは大事なことだ。
「ここちゃん!!はい!!」
「はい!!」
バトンを受け取った心菜は、思いっきり飛び出して、同じぐらいにバトンを受け取った上位3人で鍔迫り合いを行う。皆が直線ラインを全速力で走り、そして曲線に入るまでに差をつけようと躍起になる。それは心菜も同様で、抜かれないためにもつれそうになってしまう運動不足の足を叱咤して走っていた。
曲線ライン、ギリギリのところで心菜は1番に入り込んだ。後ろから追いかけられると言う恐怖と闘いながら、心菜は次の走者に渡すまでは抜かせないと体力を失い尽くした身体を動かし続ける。
(最下位ぐらいだったら、頑張らなくてもよかったんだけどな………)
半分を走ったくらいで喉にひりつく痛みを感じ始めた心菜は、心にもないことを考えて、それでも必死になって走った。
だが次の瞬間、後ろの走者に靴を踏まれて、ぐらっと心菜の身体が一瞬前に傾いた。周囲から悲鳴のような声が聞こえて、心菜はぎゅっと目を瞑った。
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夏の抑揚
木緒竜胆
青春
1学期最後のホームルームが終わると、夕陽旅路は担任の蓮樹先生から不登校のクラスメイト、朝日コモリへの届け物を頼まれる。
夕陽は朝日の自宅に訪問するが、そこで出会ったのは夕陽が知っている朝日ではなく、幻想的な雰囲気を纏う少女だった。聞くと、少女は朝日コモリ当人であるが、ストレスによって姿が変わってしまったらしい。
そんな朝日と夕陽は波長が合うのか、夏休みを二人で過ごすうちに仲を深めていくが。
Vtuberの俺たちは他人同士になったけど、兄妹設定はやめられない。元義妹が今もお兄ちゃんと呼んでくれる件。
羽黒 楓
青春
ーー妹とともに過ごす青春、妹がいなくなった青春ーー
高校二年生の春。武士郎の両親が離婚した。それは四年間一緒に生活してきた義妹が他人になることを意味していた。
別々の家に住むことになった、元義理の兄妹。
同じ学校だけど学年は違う。
二人の人生はもう交わることがなくなるのかもしれないと思った。
同じ日。武士郎は付き合い始めたばかりの彼女をクラスメートに盗られたことを知る。
たった一日で、妹を失い、彼女を失ったのだ。
だけどそれは、始まりだった――。
大人気Vtuber、水面みずほ。それが元義妹の正体。
そして武士郎もその兄という設定で活動していたのだ。
リアルでは他人、ネット上では兄妹。
いびつな関係、リアルではもうかかわらなくなるかと思っていたら――。
元妹は、武士郎の教室へとやってくるのだった。
なぜか彼女ヅラをして。
「先輩、お弁当作ってきました!」
妹だと思ってた子に先輩と呼ばれるなんて背中がむず痒い!
そして、その様子を見ていた元カノは恥をかかされたと逆恨み。武士郎の元妹を男に襲わせる計画を立てるのだった……。
恋、友情、そして兄妹愛。
すべてが混じり合っていく青春の1ページ。
ヘルツを彼女に合わせたら
高津すぐり
青春
大好きなラジオ番組「R-MIX」を聴こうとした高校生のフクチは、パーソナリティが突然、若い少女に代わった事に衝撃を受ける。謎の新人パーソナリティ・ハルカ、彼女の正体は一体?
ラジオが好きな省エネ男子高校生と、ラジオスターを目指す女子高校生の青春物語。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる