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35 心菜が思うこと

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 ーーーぼふっ!!

(あんのっ、馬鹿立花!!)

 自室にて、帰ってきたばかりの心菜はベッドの上でジタバタと身悶えていた。原因たる優しくずっと握られ続けられた手を睨みつけて、心菜はほうぅっと息を吐き出す。

「………アツい………………」

 握られていた場所がアツい。心菜はぎゅうぅっと丸くなって眉間を寄せた。
 心菜は嫌いなことをされた挙句、無理矢理送られてしまった。けれど、何故かそこまで不愉快ではなかったのだ。嫌だったけれど、嫌で嫌で仕方がないレベルではなかった。本当に不思議だ。

 ーーーピーンポーン!!
 ーーーとんとんとんとん、
 ーーーコンコンコン!!

「こーこなー!!」
「どーぞ」

 扉を開けて入ってきたのは、優奈だった。ニヤニヤした彼女に一瞬むすっとしながらも、心菜はベッドから身体を起こした。

「着替えて良い?」
「ん、」

 心菜は遠慮なくクローゼットの扉を開けて私服を取り出した。気楽な刺繍の施された黒いワンピースを取り出して下着ごと全て着替えると、幾らか心が落ち着いた。真っ白な襟が可愛らしい黒のワンピースは、心菜の密かなお気に入りだ。

「どーしたー?ゆーなちゃん」
「んー、ノートいっつもありがとうって言いに来た」
「そっか」

 沈黙という時間が心菜は好きだ。無駄なことは嫌いだけれど、何故か沈黙は好きだと感じる。

「ねえ、ゆーなちゃん、なんでゆーなちゃんが立花のこと好きなのか分かったよ。あいつ、意地悪だけれど、優しいね」
「………好きになった?」
「それはないな。そもそも私、恋に興味がない」
「はははっ、ここなはいつまで経ってもお子ちゃまだなー」

 心菜は困ったように笑った。

「でもさー、彼氏欲しくないの?」
「ーーー要らない」

 明日からはもう態度を戻そうと、近くなりすぎた距離を離そうと決意した心菜は、清々しい思いでにっこり笑った。

(あぁ、やっぱり我慢する方が我儘を通すよりも何倍も楽で心地がいい………)

 心菜は優奈の手を取った。

「立花ならね、大事な幼馴染をあげるのも悪くないなって思ったの。だから、精一杯応援させて」

 心菜は今までの人生で1番綺麗な作り笑いを浮かべた。
 やっぱり、心菜は全てを諦めようとしてしまう。

 我慢の類義語は諦めだ。

 全てを我慢すればいい。そうすれば、全部が丸く綺麗に収まる。
 心菜はそう、信じて疑わない。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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