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34 唯我独尊な彼

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「立花?」

 有栖川の不思議そうな声に、心菜は嫌な予感が頭によぎった。

(もしかしなくとも、これは………)
「送って行く。この方向音痴を道に1人で放り出したらどうなるか分からんからな」
(やっぱりー!!)

 心菜は悲鳴を上げたいのを必死で我慢して、彼らが話している隙に逃げ出して、1人で帰ろうとしたが、ーーーー………………………。

 腕を掴まれた。

 絶望に染まる精神の中で、心菜はどうしてこうも拷問に耐え続ければならないのかと自問自答した。けれど、当然ながら答えは返ってこない。

「逃げるなよ」

 耳元で麗しい声を最大限使って囁かれ、心菜はひゅっと息を飲んだ。

「ほら、久遠。帰るぞ」
「ゆ、ゆーなちゃん、助けて………」
「ばいばーい」

 薄情な幼馴染は、心菜を助けなかった。それどころか、手を適当に振って抹茶ラテフラペチーノを楽しんでいる始末だ。心菜は声にならない悲鳴を上げながら、立花に店の外に連れ出された。

「ほら、手ー出せ」

 ぷいっ、心菜は立花から目線を外して、お家に向かって歩き始めた。が、立花に腕を掴まれた。

「そっちは反対」
「………………………」

 やっぱり心菜は1人では家まで帰れないようだ。
 大人しく立花に手を繋がれた心菜は、てくてくと家に向かって歩き始めた。

「………どうしてゆーなちゃんに教えちゃったの………………?」
「ーーーー教えた方が良いと思ったから。あいつ、久遠が万能だって思い込んでたみたいだし、努力の証だって見せつけた方が良いと思った」
「余計なお世話だよ」

 心菜は搾り出すように泣きそうな声で言った。完璧主義の心菜は努力を見せびらかすことを嫌う。今日の立花の行動は心菜が最も嫌うものだった。

「知ってる」

 彼の声に、心菜は立ち止まった。彼は知っていて何故心菜の嫌がることをしたのだろうか。疑問と怒りがどんどんどんどん込み上げてくる。感情に任せてしまえば、心菜は立花を傷つけてしまう。ちゃんと理解している心菜は、深く深呼吸をした。感情を押し殺すのは、心菜の得意分野だ。

「………君ってお節介だね」
「そうかな?俺は結構我儘なだけだよ。唯我独尊ってよく言われる」
「お似合いね」

 心菜は心の底から皮肉ぶって賛同した。彼を唯我独尊と称した人を褒め称えたいくらいだ。

「ここまでで大丈夫よ。送ってくれてありがとう」

 心菜は南公園の前で立花と別れた。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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