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20 心菜は良い子ちゃん

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 心菜は小さい頃から、いつも困ったら僅かににこにこするようにしていた。世の中笑ってさえいれば絶対にどうにかなると信じていたからだ。けれど、その偶像はある時プツンと切られてしまった。
 そう、あれは確か小学2年生の頃だ。

▫︎◇▫︎

 心菜はその日、職員室にうさぎ小屋の鍵を返しに行っていた。そして、偶然にも聞いてはいけないことを聞いてしまったのだ。

「久遠さんってなんか大人びているわよねー」
「そうそう、子供達の輪には入ってくれるんだけれど、どうしても浮いちゃうのよね………」
「やっぱりあの笑顔かしら?」
「えぇ、多分ね。なんというか、綺麗すぎるくらいに綺麗な作り笑いよね」
「………そうねー、あの子が自然に笑えるようになったらいいのだけれど」

 先生達の会話が途切れたところで、心菜はノックをして職員室に入室した。
 先生達の笑顔は凍りついている。
 心菜は無邪気なふりをして笑う。『うさぎと戯れられて幸せだったよ!』と伝えるかのように、不自然なまでに満面の笑みを浮かべる。

「うさぎ小屋の鍵を返しに来ました!」

 心菜はこの日、笑顔でいても傷つけられることを学んだ。

▫︎◇▫︎

 当時の心菜は基本的に心の底から笑えていた。というか、いつも楽しくて、嬉しくて、幸せで笑っていた。悲しい時は感情に任せて泣くこともあったし、嫌なことは嫌だと首を振っていた。1年生の頃に『良い子ちゃん』だって言われたのを聞いてからは、特に我儘に振る舞うようにしていた。
 それでも、心菜は同級生に『良い子ちゃん』だと言われ続け、先生達に『大人びた作り笑いの子供』だと言われ続けた。心菜が漫画やライトノベル、アニメに逃げ込むのも無理はないだろう。

「………久遠?」
「なんでもない。スイーツ食べよ。お金は後でちゃんと払うから、レシート捨てずに置いといてね?」
「残念。もう捨てちゃった」
「え………」

 立花が肩をすくめて楽しそうに笑った。心菜は今更ながらに嵌められてしまったことに気がついた。完璧に彼は最初から心菜に奢らせる気がなかったのだ。
 むぅっとほっぺたを膨らませるが、そんな行為に何の意味もない。心菜はささっと心の整理をつけて、愛しのコンビニスイーツを手に取った。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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