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9 大鷲裕人

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「………久しぶりね、大鷲」

 麦色に焼けた健康的な肌に、縮れた黒い髪。ヤンチャボーイの風貌をした男の子は小学校時代の有名人、大鷲裕人その人だ。

「おう!久しぶり。高梨も久しぶり」
「ひっさしぶりー!!」

 優奈はよっ!とばかりに片手を上げて満面の笑みで大鷲に挨拶をした。

(あぁ、最悪だ)

 心菜は早く帰りたいと心の中で唱えまくったが、そんな願いが天に届くわけもなく、近所のコンビニのイートインスペースに連れ込まれてしまった。

(あぁ、漫画が読みたい。ライトノベルが読みたい)

 ちゅーっとストローを刺したカップのミルクティーを飲みながら、心菜は堂々と溜め息を吐いた。この男相手に、お猫さまを被る必要なんてない。というか、被りたくない。正直に言って面倒くさい。

「うわー、あいっかわらず久遠はひでーなー」
「問題児相手ににこにこしていられるほど、私の心は広くないの」
「心に菜の花って書くのに?これって『心の明るい子に育ちますよーに』だろう?」
「………………何で分かるのよ」

 心菜はじとっとした目を大鷲に向けた。確かに心菜の名前の由来は『心の明るい子に育ちますように』だ。けれど、このことを誰かに話したことなんてない。何故なら、心菜の心は結構荒んでいるからだ。明るいというよりも暗いし、陰湿だ。

「だって、菜の花の花言葉って、『明るい』とか『快活』だろ?逆に聞くけど、『心菜』って名前でそれ以外の願いなんてあるのか?」
「………ないわね。その通りよ」

 心菜はげっそり疲れて、優奈に会話をバトンタッチした。こういう時、気心の知れた幼馴染というのはとても便利だ。言わなくてもやってほしいことを理解してくれる。

「にしても大鷲、どうしてこっちにいるの?引っ越したんじゃなかったけ?というか、学校は?」
「ん?サボった。めんどかったからサボった。今日は電車でぶらり旅~」
「うわー、あんたまだ問題児続けてんの?いい加減教師に見放されるよー」

 『それ、ゆーなちゃんが言うか?』という言葉を寸出で飲み込んだ心菜は、ちょっと味の気に入らないミルクティーをごくりと1口飲み込んだ。味から考えるに、ダージリンとアッサムのミックスであろうミルクティーは、無糖なはずなのにとても甘い。

「はははっ、もう見放されてっよ」
「マジかー」
「マジだー」

 見放された組の会話ほどシュールなものはないと、心菜はこの日初めて知ることとなった。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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