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第一章 修行について
魔王誕生(明石の視点)
しおりを挟むぜぇぜぇと息を乱しながら明石武則は走った。
今、どこに向かっているのかわからない、ただ夢中で外灯の照らす道をまっすぐに走る。
真っ白な頭には血と、汗と、叫び声と自分の呼吸音が時々入れ替わり立ち代りで現れ消えていく。
これは夢だと思う。
それもとてもひどい夢だ。
目が覚めると、心底安堵し退屈な日常がまだマシだったなと思うような夢だ。
息が切れて、ぜぇぜぇと息を整える。汗をぬぐおうと右手をおでこに触るとぬるぅとしか感覚がおでこに伝わる。
そして生臭い鉄の匂いがした。
血の匂いだ。
ああ、俺は人を刺した。
包丁で何度も、何度も、何度も、何度も、
俺は自分の母親を殺した。
ばばあは、いつも俺に指図した。
やれ、30を超えているのに仕事がで心配だの、貯金をしないだの、休みの日には家に閉じこもりすぎだの、レトルトばっかりで体に悪いだの、挙句には家事をしないことまで言ってくる。
心配という前置きをすれば人の領域プライバシーに踏み込んでいいと思っているのか。
そもそも俺は一人前の社会人だ、確かに死んだ父親の貯蓄で生活しているが、一応週3回は働いている。
そこらへんの非生産者ニートと一緒にしないでほしい。
週三回の8時間も働くのは魂を削られる思いなのだ。
専業主婦で数十年もやってきたばばあにはわかるまい。
俺の今持っている苦悩はきっと誰も耐えられない、俺のこの苦悩を相手に渡せばそいつはすぐに自殺するだろう。
人が耐えられない苦悩を一人で耐えてきているのに、
あのばばあは、よりにもよって俺のパソコンの前で転びやがってデータを消しやがったんだ。
ちょっと殴っただけで大げさに転びやがって
これ見よがしにパソコンに倒れやがって。
思い出すだけでもはらわたが煮える。
このままあちこちの人間を刺しまくってやりたい、俺の苦悩を、苦痛を、怒りを全部全部ぶつけて壊しまくりたい。
仕事中に無駄な注意をするあのおっさんも、偉そうに命令する正社員どもも、小さな部品を8時間もつけるだけの単純作業同ばかり強制する会社も全部、全部壊してやりたい。
どうせ俺は詰んだ。
これから警察が来て捕まって、俺は牢屋に入って、
もう社会的に終わった。
どうせ終わったのなら全部壊したい。
力がほしいか?
そう声がした。
見ると目の前に黒い霧の塊のようなものが渦を作って俺の前にある。
人を捨てても、その魂を汚しても、力がほしいか?
「ああ、欲しい、この世の全部を汚せる力がほしい!!」
俺は大声で叫んだ。
よかろう、渦は応えた。
「お前に力をやろう、この世を汚せるだけの力を」
魔王サタンの名において
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