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 終幕 魔王の決心

仁君の混乱

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パチンと駒が鳴り、オジサンがボクの王将に王手をかける
 えっ?
 ボクは局面をもう一度確認した。
 意外だった。
 ボクの攻めは確実にオジサンの囲いを砕き、そしてあと二手でオジサンは詰む。
 なのでどう考えてもおじさんはここは守りに入らないといけないはずだ。
 もう一度、ボクは自分に欠けられた王手を確認する。
 同玉、5二竜、4二金、3三歩、同桂…大丈夫これは詰まない、駒が足りない。
 これはたぶん最後の形作りだ、詰まないけどボクに迫ったという形がほしんだ。
 ボクは少し笑いそうになる、このオジサンなかなか強かったが、やっぱりボクが強いんだ。
 将棋大会、最強戦い、これでボクはアマチュア竜王の本戦に県代表として出場できる。
 本日ゲストに来ている、名人候補の藤山さんにも良いところを見せたい。
 小学校低学年でここまでできるのはボク位なだろう。
 確か、目の前のオジサンはマイちゃんの将棋に着いてきた人だったはずだ、マイちゃんもなかなか強いけど、本戦で負けたことはない。
 ぱちん、ぱちんとテンポよく、王手を交わし、駒を交換していく、ボクには責めがどんどん細くなっていくのが、わ・か・る・って、えっ?、えっ?まだ続くの、えっ?えっ?
 えっ????、どんどん王手が続く、次第にボクの中で詰みが近づくのが見えた。
 えっええええええええええええええ!
 詰・詰ん・だ??
 信じられない、まったく遠くから即詰されるなんて
 盤面をみていた藤山さんも、小さく、うそっていうのが聞こえた。

 ●

 試合後、感想戦もできず、ボクはトイレにこもって泣き続けた。
 こんな屈辱はなかった、ボクがミスしたのではなく、相手の強さが圧倒的だったのだ。
 名前を見るとカトウって書いてあった。
 あれはマイちゃんの師匠なのか、どうして今まで将棋大会に参加していなかったのか、ボクはどの時点で負けていたのか、33手詰めってできるのかよって色々聞きたいけどこんがらがって、ボクはただ泣いていた。
 それよりもカトウが最後に、小さく、「やはり舞殿が強いな」って呟いたのもショックだった。
 ボクに一度も勝てない、マイちゃんが強いってなんだよ。
 しばらく泣いた後、会場に戻るとすごい熱気だった。
 見ると、会場の中央でプロ棋士の藤山さんが対局している、藤山さんは少し苦しそうに前かがみになっていた。
 いつも冷静珍直な藤山さんが動揺しているように見えた。
 対戦相手はカトウさんだ。
「すごいな…」隣で立っていた前回アマチュア名人のアラタさんがふうーとため息をついた。
「押しているの?」
「ああ、しかもあの人平手だよ」
平手?
 普通。プロ棋士と対局するときはハンデ戦として駒落ちが基本である、ボクでも角落ちが基本で、平手で挑むことはかなり無謀である。
 しかも相手は名人候補でプロ棋士の中でもトップクラス
 無謀ではるはずなのに…
 無論、プロ棋士なので本気ではいどまないはずだ。
 そう思っていたが、あの藤山さんの顔は真剣だった。

 異常な状況に会場が静まりかえっていた。
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