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 第三章 殺人事件について

反抗期と勇者システムについて

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 長く生きている魔族に掛かりやすい病気として『退屈』というものがある。

 長い時をすごす魔族にとって何もやることがないということはやっかないである。

 その中で、狭い空間にこもり、特に敵対する相手もなく、わりかし高い能力を持つ上級魔族は、自分の能力を過信し、自我が大きくなりすぎることがある。

 大概は自分の技に大仰な名前をつけて必殺技と称したり、必要のない腹心を作って謎の組織を名乗ったりするが、度を超えると、生みの親である我輩の行動や言動に反発したり、暗殺しようと画策したりと根拠のない万能感から我輩に挑もうとする。

 我輩これを反抗期と呼んでいる。
 
 我輩に対して攻撃をしかけるのは基本ありがちなので、許容範囲であるが、あんまり自我が拡大しすぎると、ままならない世の常と万能感の隔たりから世界そのものを否定しはじめるのだ。

 破滅思考である。

 これに罹るとタチが悪くなり、世界そのものを滅ぼそうと画策したり、混沌の欠片に手を出そうとするのだ。

 こうなった魔族に対しては我輩は盟約により滅ぼすことになっている。
 魔族はいったん滅ぼされたら力の差もあるが数千年ほどは再生に時間を要しまた復活してもその内面は多少変化しているので問題を起こしにくくなる。
 これは神々が直接手を下すのではなく、その世界に生きるものが懸命にあがない勝ち取るようサポートするのが慣わしである。
 自分よりも脆弱と思っていた人間やエルフ達が困難を一つづつ克服し成長する姿をやさぐれた魔族に見せるという教育的視点も含めておる。

 これがである。

 だが、何度も同じことをやって飽きたのか、女神と精霊王が手を抜いて適当にしたためシステムに不備が応じた。

 よりにもよって勇者が魔族の誘惑に応じてしまったのだ。

 すなわち混沌の欠片を勇者に使用させてしまった。

 混沌の欠片は基本魔族側ではなく、女神イデラ側と#精霊王__ドボル・ザーク_#側に預かってもらい、我輩の特殊な術によって魔族側が絶対に触れられないようにしている。
 女神イデラ側と精霊王ドボル・ザークもそれぞれに封印の術を行っており、両神が認められたものでしか触れられないようにしているのである。

 すなわち、カオス・ピースは勇者でしか触れないのである。

 その勇者を陥落させてしまうとは、恐るべき、海王シャークス冥王アケラム

 我輩、深いため息をついた。
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