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 第二章 心霊現象について

冥王と魔王

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 冥王ヘルマスター アケラム
 
 我が魔王の配下、五芒星デビルスターの一角
 死者と霊を操る、死の領域の王

 その奴が、なぜかノエルの隠れ家で舞と将棋をしていた。

 「あっ遅かったですね」

 アケラムは到着した我輩を見るなりそう屈託のない笑顔で話しかける。

 子どもの姿で

 「あのー突然尋ねてきて」

 サチが困ったように状況を報告する。
 玄関から入ってのテーブルにサチと、若い女性向かい合っている。テービルには珈琲カップがあった。
 若い女性はあまり表情がないまま珈琲を飲み続けていた。
 
 こいつ母親を操っているな。

 ノエルも少し困惑していた様子であるが、さすが目の前のアケラムの警戒は解けない。

 「はじめましてボク、明といいます。」慇懃に自己紹介する。

 「さっきまで舞ちゃんと将棋したけど、強いね~まったく勝てなかったよ」

 アケラムは子どもっぽい口調で母親に報告してくる。

 「そうねよかったわ」

 あまり表情のないまま淡々と母親は答える。

 サチがおろおろとするなか、舞は淡々と将棋を片付けていた。
 どうやら二人とも無事なようだ。


 ●

「どういうことだ」
 
 サチたちに呪いはとけたと話ししいったん自宅へ帰させた。
 サチも舞も二人の親子に気にしている様子であるが、我輩のぴりぴりした様子に気づき黙って自宅へ帰ってくれた。

 汚れた自宅へ戻るには大変だろうが、今はこの場から離すのが先決である。
 あとで掃除手伝おう。

「どういうこと、とは?」アケラムは首を傾げる。

 その口調と仕草は馬鹿にした態度がありありと出ている。

「とぼけるな、あの二人に何をするつもりだ」

「いやだなー何かするわけではないですよ、我が王が夢中になっている将棋というものがどのようなものか知りたくなっただけですよー」

 明らかに嘘とわかる言動が我輩を苛立たせる。
 こいつはいつもこんな奴だった。
 いちいち神経を逆なでするような振る舞いが多く、特に猪突猛進の獣王とはいつも対立していた。
 あの時は、髑髏にズタボロのローブをつけた見るからにコミュニケーションとる気がないスタイルだったので残念なやつというカテゴリーで無視してきたが、今の姿でやられると、

 うむ、むかつくな

 「まあ、でも要は無くなったので、あの二人には手は出しませんよ、我が王のお気に入りにちょっかいだすなんて、とても、とても」

 大げさに首を振る。
 こいつ絶対、いずれ出す気だな。
 我輩確信する。

 -
 
 そう豪語していた、こいつが嫌がらせをやめるとは考えにくい

 「そんなの信じないわ、何が狙いなの?」ノエルが問う

 「でも、残念ですよ、我が王がこんなに日和ひよってしまって」

 「なに?」

 何が言いたい

 「残念だな~、私の敬愛する王はもっと堂々として、孤高の存在で、なにものにも関心をもたない存在でしたのに」

 ん?
 我輩、魔王時代から結構、他に気を使っていたぞ。
 とくにこいつ(アケラム)の悪臭がひどいって苦情殺到したときはこいつのローブを洗濯したり消臭したりしたのは我輩だぞ。

「おい、何を」

「いえいえ、わかってますよ、ええわかってますよ」

 我輩が言いかけた言葉をさえぎってアケラムは続ける。

「私にはわかってます、力を失くして不安になっているのでしょう、心細いでしょう、以前の貴方と比べて見る影もない」

 アケラムは興奮したようにまくし立てる。

「以前の栄光を取り戻そうと必死にあがく貴方はなんと悲しい、私はひどく残念です」

「おーいアケラム、それと舞達はどういう関係があるのかな?」
 我輩の問いなど聞こえないように

「そんな貴方などみたくはない、死が貴方を再び美しく輝かせるでしょう」

「おいアケラム、我輩、死なんぞ?」
 我輩は死んでも転生する存在である、滅びならまだしも

「ええ、まかせてくださいこのアケラムに」
 そういって呪術を唱え始める。

 おーい、
「えええっ???」突拍子もない戦闘開始にノエルが困惑する。

死腐の抱擁デス・グラン

 我輩も困惑する。
 なぜ?その魔法?
 空間がねじれ、赤黒い闇が我輩をつつむ

 「魔王カトウ!」

 ノエルが悲鳴を上げる。
 赤い闇の柱が我輩をつつみ、そして弾ける。
 むろんだが
 我輩、無事である。

「くっくっく、やはり無駄でしたから、まだ力の差がありますか」

 いやいやいや、そうじゃなくて
 その呪術は我輩の魂に対して闇攻撃する呪文だから
 我輩に効くわけがない

 いうなれば海に対して水鉄砲を打つようなもので、威力の問題でなく、意味がないのである。

 我輩肉体は貧弱でも魂は魔王そのものである、なぜかアケラムは我輩の弱いところはつかず、我輩の一番強いところに攻撃してくる。

 我輩、この一撃でわかったことがある。


 悲しいことだがアケラムこいつは我輩のことを何も知らないのだ。

 要するに興味がないのである。

 確かにアケラムのモットーは「」である

 だから強者にはあまり興味を抱かないやつだったが、

 数万年一緒にいただろ!

 一応生みの親だから、少しは興味をもって欲しい。
 我輩、すごく傷ついたぞ、すごく、すごく傷ついたぞ!

「まあ、いいでしょう」
 我輩の悲しみは知らずアケラムは満足そうに頷き

「子はいづれ親離れするものですよ」
 と調で言い切った。

 こいつ、この台詞練習していたな…

 アケラムは母親とともに去っていた。

 脱力ぎみの我輩たちを残して

「えーと、まったく話がかみ合いませんでしたね」

 ノエルが呆然とつぶやく
 美しい黒髪がやや痛んでいるように見えた。

「以前からあんなだったが、変わらんな」

 我輩も疲れたように答える。
 我輩の髪の毛抜けてきたな。
 気のせいか、禿が広がった気がする。

「魔王って大変ですね」
 しみじみとノエルがつぶやく

「わかってくれてうれしいぞ」
 我輩もしみじみと呟いた。

 
 夕日がやけにまぶしかった。

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