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 第一章 日常生活について

シャチョウとフクシャチョウ

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  一人は若々しいというか日焼けした男と髭をはやしたしょぼくれた男が立っていた。

 浅黒い男は生地の良い濃い紺の服を着ており、髭の方は色落ちした薄いねずみ色の服を着ていた。
 日焼けの方は精力的で野心に満ちた顔立ちで、もう一方は生気の根こそぎ奪われたような顔立ちだった。

 二人の姿は対照的だ。
「はやく仕事に戻れ~納期前なんだから」
 日焼け男は明るい口調であったが、そこには有無を言わせないという意思を漂わせている。
「カトウお前、頭打ったんだってな」
 日焼け男はにやにやしながら我輩の頭を触る。
「これ以上仕事できなくなったらお前どうするんだ?気をつけろよ~」
 こちら返事をする前にさっさと歩き出して行ってしまった。
「まあ加藤君気をつけなさいね」もう一人の髭の男は心配そうに声をかけ、日焼け男を追いかけていく。

いやな奴

 ナナオは小さくそう呟いた。
 
 「あの黒いのは誰だ」
 そう尋ねるとナナオはあんた本当に大丈夫?と心配そうにこちらを見てきた。
 「偉そうだ」
 「まあ、そうね副社長の大和田はこの会社を取り仕切っているからね」
 「もう一人の髭は?」
 「社長よ」
 「副社長の方が社長より偉いのか?」
 普通、副という言葉はサブの意味と認識されているが
 「まあ、もともとは小さな会社だったけど彼が入ってから金融会社の下請けの仕事をがんがん取ってきて、儲けたからね、今は彼がこの会社の中心ね」
「なるほど、裏の支配者というわけだ」
「でもいろいろ強引すぎて手広くやった所為で敵も多いわ」
「うむ、ではナカニシもその一人か?」
「そう、あなたはその中に巻き込まれたというわけ」
「私が巻きこんだけどね」
 ナナオが少し哀れんだ顔になった。
「悪いと思うけど私も借金があるのよ、ナカニシから逃げるにはこの方法しかないわ」
 我輩は首を傾げた
 そうか?
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