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…just a bit digress.5
しおりを挟む「したの? セックス」
「こっ、ここ会社ですよっ! そんな単語ッ、ポンポン言わないでくださいッ!」
ただでさえ斎藤の声には胸が騒がしくなる、艶っぽい響きがある。
直接触れられてもいないのに、腰の辺りに得も言われない感覚を覚えるいい声をしているのだから、あからさまな言葉を何度も簡単に言ってして欲しくなかった。
…しかも快斗は、その声の持ち主である上司と何度も肌を合わせている。
ベットの中での睦言はそれほど多くなくとも、覚えのある行為を具体的に示す言葉は、快斗の体の奥深くに刺さった。
(恥ずいって!)
何度セックスしたって、その羞恥心を無くしていないという証拠のように赤面し、視線を落とす快斗を眇めた眼差しで見ていた斎藤は煙草を啣えると、
「ふぅん」
と唸り、一人合点が行ったような顔をして、胸ポケットに手を入れた。
「あ」
斎藤がライターを探している仕草に気がついた快斗は、自分のライターを素早く取り出し、斎藤の傍へ寄ると慣れた手つきで火をつけた。
――いかに喫煙率が下がっても、社会の古参には今だに愛煙家が多い。
だから、吸えないより吸えた方がいい、と教えてくれた斎藤から倣った煙草を、快斗はいつも携帯するようにしていた。
ジジッ…と煙草を包む紙が焼け、息を吸う斎藤の力を帯びた火が、赤々とした光を放つ。
愛用しているガスライターが、斎藤が啣えた煙草の先に火をつけるのを黙って見ていた快斗は、この男が合点したことを否定しないまま、口を開いた。
「怒って、るんですか」
「…どうして?」
(どうして、って)
昨日の夜のことを、確かめたじゃないか。
それに『セックスしたの?』と尋ねるくらいなのだから、快斗がそう思ってもおかしくないだろう。
それなのに『どうして』と尋ねられては…言葉を探しあぐねいてしまうことなど、分からなくもないはずなのに。
「意地が、悪くないですか」
「…」
快斗から火を貰い、身を起こした斎藤は無言を貫く。
じい、と快斗を見る瞳が、
『分かっているのなら、何でそんなことをした』
と責めているような気がして、瞳の縁が明るいグレイがかっている斎藤の視線から、逃れるように目を逸らした。
(はっきり言ってくれたらいいのに)
そうすれば、素直に自分の過ちを謝罪することができるのに。
具体的な言葉を聞かされていないこんな状況では、自分から懺悔することなど無理だろう。
だって知徳としたしまったのは、全くのイレギュラだったのだから。
…快斗自身が戸惑うほどの、あり得ないことが起きた。
それを一から斎藤に説明するというのは手間だし、時間がかかる上、飛び越えるには高すぎるハードルのように感じる。
だから、
『二度とこんなことをするんじゃない』
だとか、
『浮気者』
だとか――具体的な言葉で、責めて、怒って欲しかった。
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