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世知辛い世の中にサヨナラを3
しおりを挟む「随分賑わっているな」
「そりゃそうだろ。 今日は第一王子サマの、誕生日なんだからな」
――小さな諍い事や、意見の相違による衝突事はあれど、長く争いなどないこの世界はとても穏やかで、平和そのものである。
そのため、慶事に飢えている国民は率先して王族方の悦びを共有せんと、祝い事を行っていた。
(だからこんなに)
人ばかりでなく、街に物が溢れているんだ、と、人や物がごった返すほど賑わう街の様子を眺めていると、
「何を贈られるのか、決めていらっしゃるのですか?」
と、一人で馬車を降りたエンケラドゥスに声をかけられ、その顔を見上げた。
「はい」
「どこ行く?」
「宝飾店って、あるかな」
「…宝石、ですか」
「あ、あのね、石がメーンじゃなくて」
「?」
宝石を扱っている店で、石が欲しいのではない?
はてな? と言わんばかりに顔を見合わせている二人の前で、ローブのフードを目深に被ったカノープスは苦い笑いを零す。
「えっとね、金細工のブレスレットを、兄上に贈りたいんだ」
肥沃な大地に続く、夏でも雪を冠する山々までがディバイン帝国が統治している国土で、国境代わりにもなっているその山の一つで、金や宝飾となる石が採れていた。
帝国側に面した山で採れるということで、かつてはその辺りが紛争地帯となっていたのだが、峰続きのエクプトゥス山の噴火により停戦し、その火口より流れ出た溶岩が隣国側にのみ流入したことで鉱山までの道筋を絶たれた相手国から、二度と戦争を仕掛けられることがなくなっていた。
(な~んか、ご都合通り、って感じがしなくもないけど)
しかしそれも、ゲームの世界だからこそなんだし。
そんなご都合主義ばかりの世界で生きて行けることほど、ありがたいものはないだろう。
「金細工、ねぇ」
金と、宝石となりうる石が産出されるという故もあり、取り扱う店ではその両方を加工している所が多い。
しかし、産業としても国を支えている鉱物が枯渇してしまうことを危惧し、国によって定められた採掘権を有する屋号者たちが結んだ協定に従っているため、湯水のように採掘できている訳ではない。
それでも他国に比べれば潤沢に採れているため、宝飾商会なるものが存在していた。
よって、街道沿いにあるどの店で購入したとしても、品質には何ら問題はないのだが。
(より精密な物となれば、職人の腕にかかってくるな)
宝石ならば、研磨・カットのデザイン性を重視している店を選べばいい。
だが、カノープスの望みは
『金細工』
に限定されていた。
「だったらこっちだ」
細工に心得のある店を知っているアルデバランはそう言って道を指すと、先頭に立って歩き始めた。
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