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2章 邪月の都ルナ

41.添い寝

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 最初の課題をクリアした喜びを噛み締めていたが、周りの温かい視線でハッと我にかえって、少し咳払いをする。
 するとウォーロックさんが近づいて言う。

「良くやったぞ、アレス。まさか旦那様から十秒逃げ切れるとは……」
「イエ、それはお嬢様が教えてくれたからです」

 俺は謙虚に答えると、ウォーロックさんは少し顎にそえながら考え、考えがまとまったか俺に次の課題を言う。

「ならば次の課題は十秒から二十秒になるまで逃げる事だ」
「エエ!?」

 俺は飛躍的な難しさの驚きでつい叫んでしまう。
 一秒ぐらい残っていたらダメだったのに、プラス十秒になったら難しいだろ!?
 俺は少し抗議した、するとウォーロックさんが俺の肩を爪を突き立てて強くつかんで言う。

「良いかアレス? お前はお嬢様のお世話役だ、あまり調子に乗らない事だ」
「わ、分かりました……」

 部屋で見学しているお嬢様は少し首を傾げているが、俺の姿はウォーロックさんに隠れているためあまり見えていない。
 俺は爪が肩に食い込む痛みに耐えれずに答える。
 その後は執事服に着替えて、お嬢様にお礼を言う。

「お嬢様、あなた様の助言で課題をクリアする事ができました」

 俺がお礼を言うと、お嬢様は慌てながら謙遜する。

「い、いえ! それはアレスさんの努力です!」
「いえ、お嬢様のおかげです!」
「いえ、アレスさんの努力です!」

 少しどっちのおかげかと言い合っていると、カイン様が俺とお嬢様の頭に軽く小突いて言う。

「そんなに言い合うのなら二人の勝利で良いだろ? これなら解決だ」
「「分かりました」」

 カイン様の言い分を理解してお嬢様と答える。
 その時に、お嬢様がフフッ――と笑いだす。
 多分さっきの事だろうと思うと、俺は少し照れ笑いをして言う。

「アハハ……カイン様の言う通り、これは二人の勝利ですね」
「ハイ……そうですね」

 お嬢様はそう言うと、カイン様はお嬢様の部屋を出る。
 俺も明日のお茶会のために、お菓子の下準備をしようと行く、しかしお嬢様は俺の裾を掴んで止めに入る。
 どうしたのだろうと振り向くと、お嬢様は白い肌を赤く染めながら小さく言う。

「えっと……一緒に眠ってくれませんか?」

 ……ハイ? 何言っているか分からずに、フリーズしてしまうが、お嬢様は少しずつ理由を話す。

「今まで一人で寝れたのでしたが、アレスさんと話すうちに寂しく感じて……」

 なるほど、俺と話して徐々にトラウマが薄れてきたと同時に、孤独の耐性も薄れてきて、そのさみしさを紛らわすために一緒にいて欲しいと。
 俺はお嬢様のトラウマが薄くなるなら良いが、シャロンさんの方を見ても注意して無いと言う事は「トラウマが住めればいい」と思っているだろう。
 しかし俺にはもう一つ問題がある、それは――。

『アレス? 浮気はだめだよ?』

 ――妻の忠告が脳裏に再生される事だ。
 なぜかアリスの言葉が脳裏に再生されるのかは、気になるが俺は慌てて心の中で誤魔化す。
 違うんだ、これはトラウマを治す為なんだ。決して邪な気持ちはない!
 俺はそう心の中で言っていると、お嬢様が首を傾げながら心配してくる。

「あの? どうしたのですか?」
「い、いえ、大丈夫です。あと下準備が終えたら一緒に眠りましょう」

 俺は心配してくるお嬢様に、少し誤魔化してお願いを受け止めると、お嬢様は目を宝石のように輝かせて喜ぶ。

「本当ですか!」

 俺はお嬢様の可愛さに思わずときめいてしまう。
 か、可愛いぃ! 喜ぶ姿もだけど、色々なしぐさが可愛すぎて、保護欲がそそられそうな少女だ。
 お嬢様の可愛さにドキドキしていると、脳裏にアリスの声が再生する。

『アレス!』

 アリスの声が再生されて焦ってハッと我に気付く。それと同時に背中から大量の油汗をかく。
 その後はお嬢様が再び心配するが、俺は少し誤魔化してお嬢様の心配を払拭して、明日の下準備を終えてそのまま一緒に添い寝した。
 しかしなぜか扉の前に、二つ程の殺気を感じてあまり眠れなかった。




▲▽▲▽▲▽




 旦那様から十秒逃げ切れてから一ヶ月が経った。
 お嬢様はあれから勇気を振り絞って屋敷から出て旦那様達の前に来た、旦那様達はいつものように振る舞っていたが、心なしかものすごく喜んでいた……一人だけがガチ泣きだけど。
 それから少しずつ外に行ける範囲を広めてゆき、ついには俺が買われた港区まで行けるようになった。
 だけど俺と一緒にいなければ、少し震えてしまうが、それでもトラウマが薄くなって俺も嬉しい事だ。
 お嬢様は目を輝かせながら町を見ていた。

「アレスさん! 色々なものがあって凄いです」

 お嬢様はそう言うと、俺の腕を掴んで自分の体に押し付ける。
 あ、幼さゆえの発展途上の柔らかさが……ハッ!
 俺は少しだけ鼻の下を長くする、だが獣のような殺気にハッと我にかえって周りを見る。
 少し周りを見ると、少し離れた路地からウォーロックさんが、顔を少し出して見ていた。
 一応護衛としているが、本当は俺がお嬢様を変な事をしないか監視をするためだ。
 もしこのまま鼻の下を長くしたら、俺は頭と胴体が永久に分かれる事になるだろう。
 そう思っていると、お嬢様は腰につけている銃に質問する。

「あの? その銃という魔法具はお父様と戦った時に使っていた物ですよね?」
「ハイ、これは〈ソードオフショットガン〉と呼ばれる物です」

〈ソードオフショットガン〉は散弾銃ショットガンの銃身《バレル》を短くして、威力を上げた代物だ。
 拳銃ハンドガンを少し大きくしたものに見えるが、これは散弾を装填して目暗ましやせん滅に使われたりしている。
 最後の課題は「カイン様と共に、旦那様に一撃を与えるまたは足を崩させる」というもので、とてつもない難しさで、どうにかするために苦肉の策で作ったものだ。
 これを完成させるために、お嬢様と協力して一週間かけて作り上げた。
 それと同時作業で拳銃ハンドガンを作ってカイン様に渡した、これで何とか課題をクリアした。
 お嬢様は物凄く目を輝かしながら褒める。

「あまり分かり難いですが、とても凄いですね」
「ハイ、もしもお嬢様が危険な目に合うならこれで助けますよ!」
「とてもカッコいいです、アレスさん!」

 お嬢様と楽しく会話をしていると、通行人に当たってしまい、俺は謝ろうとする。

「あ、すみません」
「すみませんじゃないだろう、まったく!」

 通行人は俺の謝罪を小バカにする。俺が悪いけど失礼な奴だな。
 するとお嬢様はさっきまで明るかったのに、血を抜かれたかのように真っ青に染まってゆく。
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