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2章 邪月の都ルナ

40.リベンジ後編

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 俺はフェイントについて知らなく、ウォーロックさんと小声で話す。

「(あの? ウォーロックさんはフェイントのこと知っているのですか?)」
「(知っているが見えなかったぞ……)」

 さすがのウォーロックさんでも見る事ができなかったらしい。
 お嬢様には純吸血鬼《レヴナント》の身体能力の上に、天授《ギブデッド》〈探知眼《サーチアイ》〉で視力を強化している事は知っていたが、まさかここまで見れるなんてな。
 そう思いながらお嬢様が見た旦那様の動きを聞き終えて、今着ている服から着替えるために、ウォーロックさんにお嬢様の部屋に連れて行かせた。
 もう一着の方に着替えている時に少しだけ疑問がよぎる、そう言えば保持容量《ホーディングキャパシティー》にある魔鉄鉛《メティス》は奪われて無いだろうか。
 そう思うと気になってくるため、机を少しずらして樽を一本くらい置ける隙間を確保したら手をかざして詠唱する。

『異空間よ。今一度、物体を保持する空間を出現させよ! 保持容量《ホーディングキャパシティー》!』

 詠唱し終えると何もない所から樽が一本落ちてくる。
 どうやらアイツは俺の所持金や銃、着ている物をはぎ取ったのだろう。
 あいつがやっていたことは許せないが、今はどうでもいいな。
 そう思いながら樽に入ってある魔鉄鉛《メティス》をある物に詰め込み終えると、替えの服に着替えて外に出る。
 外に出ると旦那様がいた、旦那様は俺に気付くとすぐにファイティングポーズを構える。
 俺は手を強く握って構える、ウォーロックさんが片手を挙げて叫ぶ。

「それでは……初め!」

 訓練が始まったと同時に、俺は保持容量《ホーディングキャパシティー》から魔鉄鉛《メティス》を入れた瓶を取り出して、辺りにまき散らす。
 それと同時に心の中で天授《ギブデッド》を詠唱する。

(天授《ギブデッド》起動、複製物体名クナイ!)

 詠唱し終えると、まき散らした魔鉄鉛《メティス》が形状を変化して、忍者が所持する武器〈クナイ〉になって旦那様に襲い掛かる。
 しかし旦那様は気にせず、一振りですべてのクナイを破壊する、俺は頭を下げて避けたが、まさか瞬時に破壊されてしまうとは。
 だけどさらに破壊されたクナイの破片を掴んで詠唱する。

『天授《ギブデッド》起動、複製物体名有刺鉄線!』

 詠唱し終えたと同時にクナイの破片から、海外の刑務所のセキュリティーに使われる鋭利な棘が付いた鉄線……有刺鉄線になって旦那様を縛り付ける。
 俺と旦那様以外この場にいる全員が驚愕する。

「「ッ――!?」」

 部屋で見ているお嬢様も驚いている、このまま強く縛りつけば時間切れで勝てるが、相手は旦那様だ。
 俺の予想だと――、そう思っていると旦那様が感心する。

「ホホゥ、天授ギブデッドの力で縛り上げたか。だが……ふん!」

 旦那様はそう言うと、屈強な肉体を膨張させて有刺鉄線を引きちぎった。
 やっぱり、この人なら絶対にそうするだろうと見えていたしな。
 飛び散って来る有刺鉄線に、目に刺さらない様に両腕でガードしていると、旦那様が右の正拳突きを放つ。
 普通なら横に避ける所だが、お嬢様の言葉を思い出す。

(先ほど言ったとおり、お父様は初手にフェイントをかけます、ですがそれは六式魔術師の一人が編み出した技です)

 正拳突きは空手や拳法の打ち技に分類されて、拳を強く握りしめて上中下のうちどれかに攻撃する技だ。
 旦那様の正拳突きは俺の腹寸前に止めて、左から大きく振り上げる。
 俺はそれと同時に後ろに数歩下がって避ける。
 旦那様の攻撃を避けると、旦那様は少しだけ驚くがこの情報を伝えた人が分かったのか、俺に耳打ちをしてくる。

「(我が輩のフェイントをしれたのはレノンの入れ知恵か?)」

 俺は旦那様の言葉を聞いて少しくらい驚いたが、俺は旦那様の攻撃を避けながら答える。

「(ハイ、お嬢様が教えてくれました)」
「(……そうか)」

 旦那様がそう呟くと、高速に近い手刀を俺の首筋に撃ち込もうとする、これもフェイントかと思っていた、だが手刀は遅くなるどころか、勢いを増して襲い掛かろうとしてくる。
 まさかこのまま行く気か!?
 俺は急いで首を斜めにして回避するが、髪の毛が少しだけかすり、背中から冷たい汗が噴き出してくる。
 もしこのまま手刀を食らっていたら、首がへし折っていただろう。
 しかもさっきの手刀をもう一度打ち込もうとする、俺は攻撃の対処に頭がいっぱいになって動けなかった。
 もしかしてフェイントか? いや、このまま攻撃……でも、一応回避した方が……。
 そう思っていると、旦那様の手刀ががぜん目の前に襲ってくる。
 もう終わりだ……! そう思って目を閉じると同時にウォーロックさんが叫ぶ。

「そこまでです!」

 ウォーロックさんが叫んだという事は……。
 俺はゆっくりと目を開けると旦那様が豪快に笑っていた。

「ワッハッハッハ! あと一秒あれば当てれたな!」

 あと一秒……その言葉を聞いた俺はあまりの喜びに叫ぶ。

「ヨッシャァァァァァ!」
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