上 下
33 / 81
1.5章 旅団集落キャラバン

32.フラガラッハ

しおりを挟む
「〈未来視〉だと! それは確か天授ギブデッドだと上位に立つ能力じゃないか!?」
「これじゃあ、いくら攻撃しても無理じゃないか!」

 俺を除いた人達は驚きに満ちているが、俺は少しだけ推理している。
 確かに未来視はいくら攻撃しても厄介だ、だけどいくら能力が強くても何かしら制限があるはず。
 考えていると狂戦の騎士エリゴスは槍を構えて歩いてくる。マズイ、このままじゃ失格に――

「こ、こうなったら……ウワァァァ!」
「ナッ――!?」

 狂戦の騎士エリゴスをどう倒すか考えている時に、一人の候補生達が自暴自棄になって狂戦の騎士エリゴスに向かって走る。
 しかし一人の候補生は狂戦の騎士エリゴスが持つ槍の穂に叩き込まれて消滅する。夢かと思いたい、しかし現実は無情にもアナウンスが流れる。

『ライノ・クラウン脱落、残り七十八人』

 そう流れると他の候補生は様々な行動を行う、敵に背中を見せて逃げる者、突撃して散っていく者、守りを固めて攻撃に備える者などが各自の判断で行動する。その中で冷徹なアナウンスが流れる。

『二十六名が脱落、残り五十二名』

 俺はこのままでは勝てないと悟り、保持容量ホーディングキャパシティーから一組の手袋を取り出す。
 その手袋の形状は日本に合った黒い革で出来たフィンガーレスグローブだ、だが甲の部分は宝珠が埋め込まれて、薄紫の光を放っていた。
 この手袋の名前は魔導手袋マジックグローブと呼ばれる希少級レア魔法具で、その効果は他者の魔力を自分の魔力にする事ができる代物だ。
 狂戦の騎士エリゴスはこの手袋を見ると、持っている槍を手袋に向けて詠唱する。

『雷の根源よ。今一度、敵対者を焼く電撃を放て! 放電スパーク!』

 槍の先から出たのは青白く光る電流が俺に襲い掛かる、しかし電流が来る前に手袋をはめる。
 はめると表は赤子のようにすべすべだが、裏は少しだけ砂のようにざらざらとした感覚を感じる、はめたと同時に手の甲から、全身に大量の魔力が流れてきて、五感が研ぎ澄まされていく。その証拠に少しだけ集中すると周りの景色が遅く感じる。
 俺は片手を放電スパークに向けて詠唱する。

『力の根源よ。今一度、我を守る盾を生み出せ! 無盾ザ・シールド!』

 詠唱し終えると俺の前に緑色の盾が出現する。それと同時に放電スパークを防ぐ。青白い光が緑色の盾に火花を散らして貫こうとしている、しかしいくら攻撃して無盾ザ・シールドは砕けたらない。
 数秒ぐらい放電スパークを防ぐと電圧が徐々に弱まって消滅する、同時に無盾ザ・シールドを解除する。
 狂戦の騎士エリゴスは顔に手を当てて笑い出し、俺に指さしながら質問する。

『フハハハハハ! 驚いたぞ、先ほど魔法……濃度を見れば王族級キングだな? この場には居ないが一体誰の魔力だ?』

 狂戦の騎士は魔導手袋マジックグローブに注入されている魔力の質に気付いただろう、宝珠に溜めさせた魔力はアリス達と別れる前に、ヴィンセントが作った魔法具の実験でアリスの魔力を注入させたものだ。
 一応回復効果があって、例えるなら五分で十分の一回復するが、連続使用すれば一気に殻になる恐れがある。
 だけどこいつはこの魔法具の弱点を知っているだろう、俺はあえて不適の笑みを浮かべて言い放つ。

「名前は言わないけど、魔力は俺の嫁だ」

 そう言うと候補生は顎を外すくらい驚いている。
 マァ、この年で結婚している上に、魔力量が王族級キングなんてすごいだろうな。
 なんて思っていると狂戦の騎士エリゴスは顎に手を当てながら感心する。

『貴様は中々良い許嫁を得たものだ』
「まあな」

 俺は自慢げに答えると、狂戦の騎士から放たれた紫のオーラを放つと槍を構えて言う。

『だが貴様はその自慢の許嫁に、一生介抱されるまで絶望に叩き込んでやろう』

 狂戦の騎士エリゴスのオーラを感じて俺は頬から冷や汗を一粒流してしまう、しかし汗を拭って〈M4カービン〉を構えて言い放つ。

「だったら抵抗してやるよ!」

 そう言い放つとさっきまで逃げていた候補生達が武器を持って構える。

「若い奴が勇気を出しているのに、俺達はビビッテ逃げるなんて情けねぇ! 俺達もあいつに一泡吹かせるぞ!」
「「オオ!」」

 彼らはそう言うと、この場にいる候補生達が力を合わせて、狂戦の騎士エリゴスが乗っている馬に向けて、魔法や技を放つ。

「くらいやがれ、乱れ切り!」
「刺突乱舞!」
「ブレイクシェイク!」
「クリティカルショット!」
「スピンショット!」
『火の根源よ。今一度、敵対者を焼き切る刃を生み出せ! 火斬ファイヤースラッシュ!』
『水の根源よ。今一度、敵対者を押し流す激流を生み出せ! 激流水アクアラピッド!』
『風の根源よ。今一度、敵を吹き飛ばす空気の弾を撃ち出せ! 空気弾エアブラスト!』
『雷の根源よ。今一度、敵を痺れさせる電流を流せ! 電衝撃サンダーショック!』

 候補生達が放っている魔法は分かるが、その技はすべて見た事が無い、多分S●Oのソードスキルとかそういう感じだろうな。
 そう思っていると狂戦の騎士エリゴスが乗っている馬に限界が来て、馬が着ている鎧が壊れる、すると一気に暴れ出して振り落とされてしまう。
 その時に馬の頭から山羊のような角が生えだして筋肉が隆起する。やっぱり狂戦の騎士エリゴスが乗っていた馬は汚染獣バイコーンと呼ばれる馬型ホース不浄人形ドールズだった。
 狂戦の騎士エリゴスが倒れている所に汚染獣バイコーンが襲い掛かる、だが強力な蹴りが振り下ろされなかった。
 なぜなら狂戦の騎士エリゴスは持っていた槍を、汚染獣バイコーンの心臓付近に向けて突き刺していた。
 狂戦の騎士エリゴスが立ち上がると、槍に刺さって絶命した汚染獣バイコーンを外そうと振り落とす。
 すると狂戦の騎士エリゴスは俺に槍を向けて言う。

『小僧、貴様に決闘を申し込む』
「ハッ?」

 俺は思わず、何を言っているか、分からずに言ってしまう、しかし徐々にその理由が分かっていく。
 コイツは騎士だ、最初に名前や能力を明かしたのも、騎士道に沿った行動をしたからだ。
 他の候補生達は一体何を言っているか分からずにいるが、俺は前に出て答える。

「良いぜ、やってやるよ」

 そう言うと俺以外の人達が驚き出す。
 そして狂戦の騎士エリゴスは槍を地面に突き刺すと、地面から青白い光が俺と狂戦の騎士エリゴスを包み込む。
 邪魔されない様に結界を張ったんだな、周りを見て思うと狂戦の騎士エリゴスは槍を俺に向けて電力を溜めていた。
 俺も魔導手袋マジックグローブに貯蔵されている魔力を最大出力で構えてタイミングを計る。
 そして狂戦の騎士エリゴスは一瞬にも満たさない速度で詠唱する。

『雷の根源よ。今一度、悪を焼き払い、邪を打ち破る迅雷を撃ち放て! 退魔迅雷ヴァジュラ!』

 詠唱し終えると、槍の先から黄色く光る万雷が襲い掛かるが、俺は冷静で腰の剣を抜いて詠唱する。

『力の根源よ。今一度、免れぬ死を打ち破る投擲剣を撃ち出せ! 規律反転剣フラガラッハ!』

 詠唱し終えると剣が青白く光り出して、俺はそれを叩きつけると一直線に突き進む。
 退魔迅雷ヴァジュラを容易く打ち消し、そして狂戦の騎士エリゴスの頭以外吹き飛ばして消滅させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...