上 下
23 / 81
1章 魔荒国家シルバーホース

23.VS魅惑の吸血薔薇後編

しおりを挟む
 アリスが魔法を使えない事に驚いている時に、ヴィンセントが何かに気付く。

「もしかして古代魔術か!?」

 ヴィンセントがそう言うと魅惑の吸血薔薇が薄ら笑みを浮かべながらさっきの魔法を説明する。

『私がさっき詠唱した古代魔術魔道封陣界マジック・ロック・フィールドは分かりやすく言えば魔法を封印する結界を展開させるのよ』
「ナッ――!?」

 アリスは絶句して混乱している。
 ヴィンセントは魔法が古代魔術の力で使えないならと思い、回転式拳銃リボルバー〈ナガンM1895〉を魅惑の吸血薔薇に向けて、引き金トリガーを引いて弾丸を発射する。
 しかし魅惑の吸血薔薇は気にせず小鬼ゴブリンに命令する。

『あんた、アレを構えなさい!』
『ハッ、承知イタシマシタ!』

 小鬼ゴブリンはそう言って取り出してきたのは厚さ五センチくらいありそうな鋼鉄の円盾バックラーを構える。
 ヴィンセントはなぜ円盾バックラーを構えているか分からずに思っていると、弾丸を弾いた。

「何ィ!?」

 ヴィンセントは弾丸が弾かれた事に驚いてしまい硬直する。
 アリスは魔法を使えずに回転式拳銃リボルバーを撃っても埒が明かないと知り、ヴィンセントの方に走り出す。

「アリス……そういう事か!」

 ヴィンセントは一瞬でアリスの考えを察して手を組む。
 アリスがヴィンセントの手に乗ると勢いよく上に投げ飛ばす。
 アリスの髪がさらさらとなびき、背中に着けている蒼いマントがひらりと待っている。
 アリスは冷静に〈キアッパ・ライノ〉を構えて魅惑の吸血薔薇に向けて三発弾丸を放つ。
 これで勝てる――! なんて思っているのがアリスの命とりだ。
 魅惑の吸血薔薇はいきなり詠唱する。

『茨よ。今一度、攻撃を防ぐ茨の壁を生み出せ! 茨壁ソーンウォール!』

 詠唱し終えると地面から茨が生えだして一つの壁になり弾丸を防いだ。
 これを見たアリスは混乱していた。

(どういうこと!? 確か魔道封陣界マジック・ロック・フィールドは魔法を封印する結界なのに、何で魅惑の吸血薔薇は使えているの!?)

 アリスが混乱している時に魅惑の吸血薔薇は狙いを定めて茨槍ソーンランスを突き刺そうとする。
 アリスはハッと気づいて体を捻って回避する、しかし茨槍ソーンランスがかすってしまい右ほおを傷ついてしまった。

「ウゥ!?」

 しかし空中で体を捻った事で、うまく着地できずに地面に叩きつけられてしまう。

「ガハッ!」

 アリスは地面に叩きつけられた衝撃で、体内の中にある酸素をすべて吐き出してしまう、膝を地面に付きつつも何とか立ち上がって酸素を求めて大きく呼吸する。
 すると右肩に激痛と灼熱を感じて顔を歪む。

「ウァァァァッ!」

 アリスが悲鳴を上げているのを見たヴィンセントは助けようとする、だが小鬼ゴブリン魔菌マイコニドが邪魔していて近づく事すら出来ずに苛立つ。

(クソッ! このままじゃ、アリスが死んじまう……それだけは何としてでも防がないといけねぇ! にしてもどうして魅惑の吸血薔薇コイツだけが魔法を使えるんだ?)

 ヴィンセントが不思議そうに思っていると魅惑の吸血薔薇は機嫌よく説明する。

『バカねぇ、私は一度も使のは言ってないわよ? 魔道封陣界マジック・ロック・フィールドは敵の魔法だけを封印するのよ』
「だからお前が詠唱しても問題なく魔法を使えたんだな」
『エエ、そうよ。それにしても金髪の血――』

 魅惑の吸血薔薇はアリスを舐めまわすように見ると、恍惚な笑みを浮かべて叫ぶ。

『とてもそそられるわ! 体内の魔力がこれでもかとぐらいに躍動して力が増していくわ! さらに結界の範囲が広まってくる上に美しくなれる!』

 魅惑の吸血薔薇はそう叫ぶと脚部となる茨から薔薇が咲き始めて、胸の中心にもバラが咲く。
 その時に生命晶コアが剥き出しになっていた。よほどアリスの血を気に召されていたのだろう。
 魅惑の吸血薔薇は狂気の笑みを浮かべながら茨をヴィンセントに目掛けて叩きつける。
 しかしヴィンセントは横に避ける。そこにいた場所は地面が叩き割れ、大木がへし折られてしまい背筋がツララに刺されてしまったかのように悪寒が走る。

(嘘だろ……さっきいた場所がとんでもない事になっているじゃねぇか! このまま戦っても死ぬだけだ! 一体如何すれば――)

 ヴィンセントがこの状況を覆す方法を考えていると、後ろから小鬼ゴブリンがこん棒を強く振って叩き割ろうとする。

『隙アリー!』
「しまっ――!?」

 避けようにしても間に合わず、〈ナガンM1895〉で撃とうとして引き金トリガーを引く。
 しかし引き金を引いても弾丸を撃つ事ができなかった、すでに弾切れになってしまった。
 まさに絶体絶命の時に一つの銃声が森中に響く。
 銃声が響いたと同時に小鬼ゴブリンの眉間に風穴があいていた。ヴィンセントは銃声がした方に向くと大きくため息をついた。

「オイオイ、こんな状況に来るなんて正義のヒーローみたいだな……

 アレスは申し訳なさそうに謝る。

「悪い、これでも早く来れた方だと思ったけど無事でよかった」

 アレスと聞いたアリスは顔を前に向ける。
 そこには黒のコートや手袋をつけているが、炎のように赤い瞳に、漆黒のウルフカット、幼少期に助けてくれた記憶を追体験しているような感覚を感じながら、頬に一粒の涙を流す。

「あ、アレスぅ……」

 アリスはアレスが助けてくれたことに涙を流し、アレスはアリスを優しく抱く、魅惑の吸血薔薇がいてもだ。

「アリス、遅れて申し訳なかった」
「嬉しいよ、アレスが助けてくれたことに嬉しいよ……」

 二人は力強く、そして優しく抱き合っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...