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1章 魔荒国家シルバーホース

20.恋愛調査後編

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「ウゥゥゥン……あれ? 俺なんで自室にいるんだ?」

 俺は少し頭を掻きながら起き上がると、ヴィンセントが気付く。

「オオ、ようやく起きたんだな」

 ようやくってどういう事だ? 訳が分からず首を傾げていると、ヴィンセントが額に手を当てながら言う。

「覚えてないのか? お前が血を吐き出して倒れた事を」

 一体何の事か分からないが、手に顎を添えて考える。

(血を吐き出して倒れた事って、アア! 思い出した、俺は猫商人がアリスをけがらせたと思っていた時に意識が途切れたんだった)

 あの時を思い出して外を見る、するともはや暗くなっていた。
 もしかして数時間ほど寝ていたんだな。ってそんな事より猫商人のクソ野郎はドコだ!? 見つけたらその自慢の顔をハチの巣みたいにしてやんよぉ!
 怒りが収まり切れず回転式拳銃リボルバー突撃銃アサルトライフルを探していると、ヴィンセントが保持容量ホーディングキャパシティーを発動して、そこから取り出したのは〈ニューナンブM60〉と〈M4カービン〉だった。

「どうせお前はすぐに殺そうとこの二つを使うのだろ?」
「ウグゥ……」

 心に矢が刺さるような感覚を感じると、アリスと猫商人の野郎が入って来た。
 同時にヴィンセントは、瞬時に隠す。

「ア、アリス!?」
「アレスが倒れてどうしたのか焦っていたけど無事で良かった」

 まさかアリスに心配されるなんて、俺は頭を下げる。

「心配させてすまん」
「大丈夫よ、リーベット先生に起きたって伝えるから」

 アリスはそう言うと部屋を出てリーベット先生に伝えに行く。
 足音が聞こえなくなると、俺は猫商人の方に向いて質問する。

「すみませんがあなたとアリスはどんな関係ですか?」
「彼女と僕の関係か……」

 猫商人は顎に手を当てて考え出す。
 コイツ、いちいち鼻に着く事をしやがって!
 もし銃が没収されて無かったら即座にハチの巣にする事ができただろう。
 そうして少し待つとリーベット先生が部屋に入って来る。

「アリスちゃんから聞きましたが……」
「アハハ、本当にすみません」

 リーベット先生が呆れて俺は苦笑いで謝罪する。
 するとリーベット先生が驚きの事を言う。

「それにこの人はなんですよ」
「へ?」

 いきなりすごい事を言って脳が混乱してしまうが、俺は脂汗を掻きながら猫商人の方に向く。
 すると猫商人は当たり前のように凄い事を言う。

「いやはや、まさか僕が男だと思われるなんて。れっきとした女だよ」
「エエ!?」

 俺は思わず驚いてしまいヴィンセントの方に向くと首を縦に振る。
 嘘だろ!? ってことは俺の勘違いか?
 全て俺の勘違いだと知ると顔が熱く感じてしまい赤面してしまう。
 ハッズ! 滅茶苦茶恥ずかしいんだけど! それにアリスが知っているなんて物凄く恥ずかしい。

「アァァアァァ!?」

 俺は布団に被って大声で叫ぶ。
 リーベット先生たちは気まずそうに部屋を出る。
 少し経つと扉を叩く音がする、俺は恥ずかしくて小声に答える。

「……入っていいぞ」

 部屋に入ってきた人物が気になって布団の隙間から除くとまさかのアリスだ。

「アリス!?」
「うん、一応今日の晩ご飯持って来たよ」
「す、すまん」

 ぎこちなく今日の晩ご飯を受け取ってさっそく食べる。
 うん、これは――。

「今日の晩ご飯はシチューなんだな、アハハ」
「えっとそれはスープとパンだよ」

 アリスがぎこちなくツッコンでくる。
 マズイ脳が混乱しているから味がまったく分かんない。
 どうやってこの場を乗りこえようか考えていると、アリスが質問してくる。

「ネェ、アレス……」
「何だ?」
「魔力量の差で起きた失恋って覚えている?」
「ッ――!?」

 その質問を聞いて俺は身体が強張った。
 確か結婚を約束していた幼馴染みがいて、少年は少女に恥じない様に魔術師学校に入学して村から離れた。
 それから青年は卒業して故郷の幼馴染みを迎えに行こうとした。だがそこには首席で卒業した男の手を繋いでいる幼馴染みを見て問い詰めた。
 幼馴染みは子供を楽にさせたいと言って故郷から去り、青年も失恋によるショックからどこかえ消えたという。
 しかしいきなりその話を聞かせるのはなぜだろう?
 そう思っているとアリスは昼に見た木箱を取り出して中を見せる。
 中身はまさかの〈キアッパ・ライノ〉だった。だが外側だけの偽物で、その証拠に引き金トリガーが引っ掛かって弾丸を撃てることは出来なさそうだ。

「これって〈キアッパ・ライノ〉!? でも何で……?」
「実はこれ店長に頼んで作ってくれたものなの」
「猫商人に?」

 最初はどういうことか分からなかったがアリスが少しずつ理由を話す。

「実はアレスにあこがれているの」
「俺に?」
「うん、あの日助けられて私もアレスみたいに、人を助けられるようにしようと努力したの。この銃は魔術師学校に入学するためのお金を使っているの」
「そうだったのか」

 だからアルバイトや射撃訓練に精を出していたんだな。
 俺はアリスの手を掴み抱き寄せる、すると当の本人は顔を真っ赤に染め始める。

「ア、アレス!? いきなり――」
「悪かった、アリスを信じていない俺の責任だ」
「アレス……」

 アリスは小さく俺の名前を呟き、そのままキスをしそうな雰囲気になる。
 しかし俺とアリスは正気に戻って少し離れる。

「と、とにかく疑って悪かった!」
「わ、私もちゃんと教えていればこんな事になっていなかったよ! また明日会おうね!」
「そうだな!」

 俺はそう言うとアリスは慌てて部屋から出る。
 危なかった、この少しでキス以上な事をしていた……!
 そのうえ心臓がはちきれそうなほど早く鼓動している。
 その後は何とか落ち着て食事を済まして就寝する。
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