vamps

まめ太郎

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「分かりました。今日のところは失礼します。ですが、次はもう少し実のある話を聞かせていただきたいものですね」
 刑事は俺を軽く睨むと病室から出て行った。
 両親も飲み物を買ってくると出て行く。

「嫌な気持ちになっただろう? ごめん」
「何でお前が謝るんだ。謝らないといけないのは、被害者のお前に尋問めいた真似をして、最後に嫌味まで言ったあいつらだろ」
 ヒューイは俺に横になるように言い、俺の体の上に薄いタオルケットをかけた。
 ヒューイが優しく前髪を撫でてくれる。

「疲れているんだろ。もう少し眠ったほうがいい」
「うん。ヒューイも帰って休んで。俺のせいで、全然眠ってないんだろ」
 俺の前髪に触れていた指がぴたりと止まった。
「お前があいつらに囚われている状況で眠れるわけなんてない。あいつらにアレンが連れて行かれたのは俺のせいなんだしな」 
 ヒューイは俺の手を握ると、顔を近づけた。

「あの夜のことを何度も夢に見るんだ。俺の命令でお前を行かせちまって、手を伸ばしても、叫んでもお前には届かなくて」
 ヒューイの表情が苦し気なものに変わる。

「謝ってすむなんて、思っていない。だが、本当にあの時はすまなかった」
 でもあの夜を再びやり直せるとしても、きっとヒューイは同じ決断をするんだろう? 
 そんな意地悪な考えが一瞬頭をよぎったが、傷ついた表情のヒューイを見ていたらそんな気持ちは長く続かなかった。

「いいんだよ。あの時は俺が行く以外どうしようもなかった。こうやって俺も無事帰ってこれたんだし、もういいじゃないか」
「いいわけあるかよっ」
 ヒューイが声を荒げた。

「いいわけない。お前に命令した時、そうしてお前を連れて行かれた時、俺がどんな気持ちだったかわかるか? あれからずっと考えている。何で俺はあの時お前を行かせたんだろうって。どうしようもなかっただって? 何か方法があったはずだ。たとえ自分が犠牲になったって、お前をあいつらと行かせずにすむ方法が。そんなことも思いつけなかった俺は大馬鹿だ。俺だって、そんな決断をした自分自身を許せないんだ。そんな俺をアレンが許せるはずもないことは分かっている」
 俺はとっさにヒューイの腕を掴んだ。

「ヒューイ、俺は許しているよ」
 ヒューイの目をまっすぐに見つめてそう言った。
 ヒューイは俺の言葉が弾丸で、まさに撃ち抜かれたみたいに痛そうな表情を浮かべた。
「戻ったら、お前はそう言うだろうと思っていたよ。アレンは優しいから。俺のことを否定なんてできないものな。どんなに自分が傷ついたとしても」
 ヒューイが唇を噛み、顔を背ける。

「ヒューイ」
 ヒューイは何かを振り切るようにぎゅっと目を閉じると、強ばった笑みを浮かべた。
「悪かったな。休めなんて言っておいて長話をして。俺も一度家に帰るよ」
「でも」
「アレン、休むんだ」
 きっぱりと言われて、俺の脳はそれを命令と捉えたらしい。
 ヒューイの腕を掴んでいた手を離す。

「おやすみ」
 俺が目を閉じると、額にしっとりと温かい感触を覚えた。
「おやすみ」
 そう呟くヒューイの声は哀しそうだった。
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