vamps

140

「ここで暮らしている方がずっといいよ。前に住んでいたところは本当に最悪だった」
　マリアは自ら長めの前髪を持ち上げた。
　額に斜めに大きく切られたような傷跡があった。

「それ……」
　俺は言葉を失った。
「前にいたところでやられたの。化け物だって石をぶつけられた」
「そんな、酷い」
「前に住んでいたところはヴァンプ差別の酷い地域だったから、先生もやった子の味方だった。『ヴァンプとして産まれてきた貴方が悪いのよ』だってさ」
　あまりに酷いマリアの過去に俺の眉が自然と寄る。

「くだらねえよな。ヴァンプだって人間だって何も変わらないのに」
　きっぱりと言ったのはリャンという黒い瞳に黒髪の男の子だった。
　どうやらこの子は人間のようだ。
　リャンの言葉に小さくマリアが微笑んだ。
「つまらない話は止めて、トランプしよ」

　それから俺はマリアたちと2時間ほどトランプを楽しんだ。
　逃げる時に役に立つかもしれないと、俺はこの付近のことなど子供たちに色々と質問した。
　子供たちは隠す様子もなく、全て答えた。

　ルディは一体どういうつもりなのだろう。
　俺がヒューイのもとに戻って、警察にこの場所のことを詳しく話してしまってもいいのだろうか。
　それとも本気で俺をここから帰さないつもりか。

　そんなことを考えると、ふいに足元にぽっかりと大きな穴が開いた気分になった。
「ほら、お前らおやつの時間だぞ」
　いつの間にかキースが教室の後ろにいた。
　子供たちはトランプを放ると一斉に立ち上がり、キースに駆け寄っていく。

「今日のメニューは？　」
「さあな。食堂に行けば分かるだろ」
「アレンも一緒におやつを食べよう」
　リャンに手を引かれたが、キースが俺の肩を掴んだ。
「アレンは俺と話があるんだ。先に行け」
　マリアやリャン、他の子供たちは俺に『絶対に食堂に来てね』と何度も言うと、教室から出て行った。