vamps

97

「本当に今夜のヒューイは素敵ね。こんな王子様にエスコートしてもらえるアレンが羨ましいわ」
　はしゃいで手を叩く母親が恥ずかしい。
「では、息子さんをお借りします」
　ヒューイはそんな母親に頭を下げると、俺にむかって手を差し出した。
　俺はおずおずとその大きな手に自分の掌を重ねた。

　まるで童話のお姫様みたいだ。
　自分の思考が恥ずかしくて、勝手に頬が熱くなった。

　ヒューイと一緒にカレッジまでの道のりを歩く。
「悪いな。流石に車までは借りられなかった。軽トラじゃ格好つかないしな」
「ううん」
　俺はヒューイの腕に自分の腕を絡めた。

「妹も今日のダンスパーティーに出席しているのか？　」
「ペアがいないから、行かないって。けど友達の家でパジャマパーティーだって楽しそうに出て行ったよ」
「ふうん」
　街灯に照らされたヒューイの横顔は神々しいほどだった。
　ふいに会場では着飾ったシュリと会うだろうと考えると気が滅入った。
　ドレス姿のシュリはまるで咲き誇る薔薇の花のようだ。
　それに比べて安物のスーツ姿の自分は、どう考えても今夜のヒューイに似つかわしくない。

「どうした？　」
　俯いているとヒューイから声がかけられる。
　俺は慌てて、顔を上げた。
「何でもない。これ安物だから生地がペラペラでちょっと寒くて」
　無理やり作った笑顔で言うと、ヒューイが立ち止まった。
　自分のスーツの上着を脱いで、俺の肩にかける。

「いいよ。ヒューイが寒いだろ」
「俺は暑がりだから、これくらいでちょうどいい」
　ヒューイはシャツ姿になり、腕まくりをすると、俺と手を繋ぎ歩き始めた。
　俺はヒューイの上着を握りしめながら、壊れそうなくらい高鳴る心臓の音が隣にいるヒューイに聞こえませんようにと願った。