vamps

7

　廊下にでると、ぼそぼそと押し殺した声が聞こえた。
　声のした薄暗い非常口の方を見ると、壁を背にして立つシュリにヒューイが覆いかぶさるようにして話している。
　咄嗟に2人から見えないように俺は壁にピタリと身を寄せた。

「なんであんな奴に招待状渡したりなんかしたんだよ」
「あんな奴って、アレンのこと？　」
「名前なんか覚えてねえよ。あいつお前のこと気色悪い目つきで見やがって、気に食わねえ」
「やめてよ、ヒューイ。彼はそんなんじゃないわ」
　自分の名前が聞こえたのが気になり、薄暗い廊下の奥を伺うと、シュリの手がヒューイの頬を撫でている。

　ヒューイとシュリが交際しているという噂は以前からあったが、2人ともそれを否定していると聞いていた。
　しかしこの雰囲気では、噂ではないようだ。
　先ほどまで狂犬のように俺を睨みつけていたヒューイが、今は室内犬のようにシュリに撫でられじっとしている。

「第一シュリはヴァンプ嫌いだろ？　あいつそうだぜ。聞いた事ある」
　このカレッジでも偏見や差別がゼロというわけではない。
　人間の血液を食料とする俺達のことを、化け物と蔑む人間も少なからずいた。
　ヒューイはきっとそのうちの1人なんだろう。

　俺だって好きでヴァンプに産まれたわけじゃない。
　知らずに俺は唇を噛みしめていた。

「ヒューイ。勘違いしないで。私はヴァンプが嫌いなわけじゃない」
「でもシュリの親父さんは」
「パパの話は止めてっ」
　シュリが突然声を荒げた。
「悪かったよ」
「ううん。私こそ急に大声だしてごめんなさい。でも本当に私自身はヴァンプのことを差別していないから」
「ああ、分かっているよ」
　2人の遠ざかる足音が聞こえた。
　非常階段から出て行ったのだろう。
　俺はずるずるとその場にしゃがみこんだ。