vamps

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「お兄ちゃん、ごめん」
　2つ下の妹、ティアだった。
　ハイスクールの制服に身を包んだティアは、綺麗に巻いた自慢のロングヘアーを揺らしながらおざなりに謝る。
　妹は俺とは違い、いかにもヴァンプらしい容姿で、瞳と髪は薄い水色。身長も腰の位置も高く、すらりとした長い手足をしていた。
　人間では染めたり、カラーコンタクトの世話にならなければあり得ないような髪や瞳の色を生まれながらに持つヴァンプも多い。
　俺の母も黄色の瞳と髪の色をしていた。

　妹は家の前で待っていた同い年の恋人で、TIE(タイ)のジャックの腕に自らの腕を絡ませる。
　ジャックはティアと同い年の人間の男性で、俺に軽く頭を下げると、ティアに微笑み、二人は歩き始めた。

　タイというのは、ヴァンプが特別な相手として人間と契約することやその相手を意味する。
　ヴァンプが血を得る方法はいくつかある。
　国にヴァンプとして登録して、血液のパウチを定期的に配給してもらう方法。これは20歳まで無料で国から配給され、それからも月に1万払えば、自宅に届けてもらえる。俺はこれを利用していた。
　もしくは妹や母のように誰かと契約を結び、その相手から定期的に血液を摂取する方法だ。
　タイの関係になるためには、ヴァンプが相手の人間の舌から吸血することが条件となる。他の部位ではダメだ。
　契約が完了すると、タイの相手と自分の体の同じ場所に、同じ色の薔薇のマークが浮かび上がる。
　ちなみに母は紫の薔薇が右の腕に、妹は黄色い薔薇が喉に刻まれている。

　このタイという関係はヴァンプにとって、いいことばかりではない。
　ヴァンプはタイになった相手の命令を拒むことが難しくなる。
　むしろ相手の命令を遂行することをヴァンプは至上の喜びとして感じてしまうのだ。
　これは自分に食事としての血液が与えられなくなることを恐れるあまり、タイの機嫌をそこなわないための、ヴァンプの本能だと言われている。
　タイができたヴァンプはタイ以外の相手から吸血することがほぼ不可能となるからだ。
　タイができたヴァンプの味覚には変化が生じ、タイ以外の血液は泥水みたいに感じるようになる。
　タイから血液を貰えなくなったヴァンプが死に至る事例は、現在でも多数報告されていた。

　タイの関係を解消するためには薬を飲むか、ヴァンプの薔薇のマークを手術で完全に除去するか、相手が死ぬかしかない。
　しかしタイ解消の薬は高額で、普通のサラリーマンの年収のほぼ半分だ。
　手術での除去は薔薇のマークの浮きでる場所によっては命の危険を伴い、不可能なことも多い。