春に落ちる恋

まめ太郎

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 壊れ物みたいに俺を抱くと、将仁さんはゆっくりとまだ硬度を保っている自らの灼熱を引き抜いた。
 俺の額にしっとりとキスを落とし、微笑みながら前髪を梳いてくれる。
 いつもならこの後二回戦になだれ込むのに、今日はそんな雰囲気じゃなかった。
 もう一度額に唇で触れると、将仁さんがベットから立ち上がろうとしたから、呼び止めた。
「待って。どこ行くの?」
「飲み物取ってくるだけだ」
 将仁さんは苦笑すると、リビングに消えた。
 俺は将仁さんが戻ってくるまでの間、何度も自分の手をこすり合わせたり、落ち着きがなかった。
 実際、将仁さんがいなかったのは10分ほどだろう。
 それなのに将仁さんの顔を見た瞬間、まるで何年も会えていなかったかのように安堵の笑みを俺は浮かべた。
 将仁さんもにこりと微笑むと、白いマグカップを俺に手渡した。
「これ、何?」
「ロイヤルミルクティー。熱いから気をつけろ」
 将仁さんがベットに乗りあげ、俺を後ろから抱き込んだ。
「将仁さんは飲まないの?」
 俺はカップを両手で持ったまま、首だけ振りむき、聞いた。
「俺は水で充分」
 そう言って、枕元にあるペットボトルに手を伸ばした。

 俺は湯気を立てている飲み物に息を吹きかけ、ゆっくりと飲んだ。
 ミルクと砂糖の甘みがじんわり広がり、体だけでなく心まで温まるようだった。
「ありがとう。美味しい…」
 そう言うと、自分の目尻に自然と涙が浮かんだ。
 慌てて、手の甲でそれを拭う。
「ごめん。今日ちょっと俺おかしいよね。気にしないで」
 そう言う俺に将仁さんが両腕を回し、柔らかく抱きしめる。
「春…、お前の過去に何か、俺に言えないことがあるっていうのは気付いている」
 俺は将仁さんの言葉にひやりとした。
「でも俺はそれを無理に聞きだそうとか、暴こうとか、そんなつもりは一切ない」
 将仁さんはそこまで言うと俺のこめかみとつむじにあやすようにキスを贈った。
「でももしお前が…本当に困って誰かに頼りたくなったら、一番に俺のことを思い出してほしい」
「将仁さん…」
 俺は額を将仁さんのたくましい首筋に擦り付けた。
 もう溢れでる涙をどうにかしようとは思わなかった。
 代わりに将仁さんが暖かい指先で俺の涙を何度も拭ってくれる。
「春は本当に泣き虫だなあ」
 将仁さんの優しい声が頭上から降ってきて、俺の涙がまた零れた。

 ねえ、将仁さん。
 あなたがくれた言葉は俺が今まで生きてきた中で、一番嬉しいものだった。でも、ごめん。俺はその約束はできない。
 世界中の人に自分の過去がばれたとしても、あなたにだけはどうしても知られたくないんだ。 
 もしあなたが俺の汚れている部分を知って、少しでも態度が変わったら、俺はそれに耐えられそうもない。
 でもそれで俺がどうにかなってしまったら、きっとあなたは自分を責めるでしょう?
 あなたは誰よりも優しい人だから。

 将仁さんが泣いている俺の背中を、ゆっくり撫でてくれる。
 全てを明け渡せない俺は、こうしている時でさえも将仁さんを裏切り続けているのかもしれない。
 将仁さんは俺が寝付くまでずっとそばに寄り添ってくれた。
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