春に落ちる恋

まめ太郎

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「で、最近、春の方は?相変わらず、一晩限りの関係なわけ?」
 俺が恋人は作らない主義と知っている忍が、パンケーキを口に入れながらそう聞いてくる。
「いや、実は、今付き合っているような感じの人がいて……」

 俺は忍に京極さんとのことを洗いざらい話した。
 同じ会社の人間に話すのはまずいのかもしれないが、どうしても誰かに相談したかった。自分がゲイであることを隠している俺は、相談できる相手が忍しかいなかった。

 俺の話を全て聞いた忍は、フォークの先を口に含みながら難しい顔をした。
「ねえ、春。それってやばくない?」
「やばいよねえ」 
 ははと俺は乾いた笑みを浮かべた。
「職場恋愛ってよく聞くけど、リスク高すぎだよ。特に俺たちゲイにとってはさ。そもそも京極さんってノンケなんでしょ?今は大切にしてくれても、気になる女性が現れたら、そっちいっちゃうと思うよ」
「だよね」
 俺は口の端に苦い笑みを浮かべた。そんな俺の表情を見て、忍が眉を八の字にした。
「ごめんね。きついこと言って。でも僕もノンケと付き合ったことあるけど、ひどい振られ方してボロボロになったから、春にはそんな目に合って欲しくないんだ」
「うん」
 俺の机の上の手を、忍がぎゅっと握った。
「ノンケと付き合ったって、周りが結婚しだしたら、適齢期だ世間体だって、あいつら簡単にこっちのことなんて捨てるんだよ?春だって、京極さんに本気ってわけじゃないんでしょ?前会ったとき、殺してやりたいって言ってたじゃん」
「あれは……酔ってたし」
「じゃあ春は、このまま京極さんとずっと付き合っていけると思ってるの?そんなに彼が好き?あんなに彼のこと嫌ってたのに、急におかしいよ」
 たたみかけるように忍に言われ、俺は焦って言い返した。
「そんな、本気で好きになるわけない。俺だって遊びのつもりだよ」
「そっか、良かった。そうだよね。春、あの人のこと悪魔とまで言ってたもんね。好きになるわけないか」
 忍はようやく笑顔になると、ロイヤルミルクティーのカップに口を付けた。
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