春に落ちる恋

まめ太郎

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「鶴子さんは最初とても反対した。田舎に引きこもるには俺はまだ若すぎるってな。もったいない、やめろと言われたよ。それでも俺はめげずに鶴子さんを何度も訪ねた」
「何度もって…ここまで車で往復したの?」
「ああ。会社を辞めてからはほとんど毎日な。おかげで山道も危なげなく運転できるようになったぜ」
 誇らしそうに将仁さんが言うので、俺はくすりと笑った。俺の笑顔を見て、将仁さんも微笑む。

「そんな俺に鶴子さんが妥協案を出した。せめて町の近くに住めと言われたんだ。でも俺は嫌だった。緑の多い、桜の綺麗なこの場所に住みたいと言った。それこそが春の理想の場所じゃないかと考えていたからな。そうしたら鶴子さんに本気かと聞かれて、俺は迷いなく頷いた。鶴子さんは分かったと言って、翌日にはこの家の家主と連絡を取ってくれた。その上格安で譲ってもらえるよう、口添えをしてくれたんだ」
 将仁さんは長い息を吐き、俺の肩口に顔を埋めた。
「正直助かったよ。知らない土地で一から不動産を探すのは大変だと思っていたし、何よりここなら絶対に春が気に入ると思った」
「将仁さん、そこまでしてくれたなんて…ありがとう。俺、ずっとこの桜を見て育ったから、ここは本当に特別な場所なんだ」
 俺はそう言うと庭の桜を見上げた。
 子供のころから見てるそれになぜか祝福されているように感じ、俺は瞳を潤ませた。

「そうだ。ちょっと家の中を見て回らないか?もうほとんどリフォームも終わってるんだ」
 将仁さんは立ち上がると、俺の手を引いた。
 広い居間は和室だったが、右手の扉を開けた寝室は洋室だった。見慣れたソファとどでかいベッドが置いてある。
「次はキッチン」
 キッチンも使いやすそうな広々とした作りだった。板の間からにょっきりシステムキッチンが生えているような見た目は少し違和感があったが。
「トイレ」
 ドア自体は古そうな木だったが、中はウオシュレット付きの新しい洋式トイレだった。
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