320 / 336
267
しおりを挟む
「鶴子さんは最初とても反対した。田舎に引きこもるには俺はまだ若すぎるってな。もったいない、やめろと言われたよ。それでも俺はめげずに鶴子さんを何度も訪ねた」
「何度もって…ここまで車で往復したの?」
「ああ。会社を辞めてからはほとんど毎日な。おかげで山道も危なげなく運転できるようになったぜ」
誇らしそうに将仁さんが言うので、俺はくすりと笑った。俺の笑顔を見て、将仁さんも微笑む。
「そんな俺に鶴子さんが妥協案を出した。せめて町の近くに住めと言われたんだ。でも俺は嫌だった。緑の多い、桜の綺麗なこの場所に住みたいと言った。それこそが春の理想の場所じゃないかと考えていたからな。そうしたら鶴子さんに本気かと聞かれて、俺は迷いなく頷いた。鶴子さんは分かったと言って、翌日にはこの家の家主と連絡を取ってくれた。その上格安で譲ってもらえるよう、口添えをしてくれたんだ」
将仁さんは長い息を吐き、俺の肩口に顔を埋めた。
「正直助かったよ。知らない土地で一から不動産を探すのは大変だと思っていたし、何よりここなら絶対に春が気に入ると思った」
「将仁さん、そこまでしてくれたなんて…ありがとう。俺、ずっとこの桜を見て育ったから、ここは本当に特別な場所なんだ」
俺はそう言うと庭の桜を見上げた。
子供のころから見てるそれになぜか祝福されているように感じ、俺は瞳を潤ませた。
「そうだ。ちょっと家の中を見て回らないか?もうほとんどリフォームも終わってるんだ」
将仁さんは立ち上がると、俺の手を引いた。
広い居間は和室だったが、右手の扉を開けた寝室は洋室だった。見慣れたソファとどでかいベッドが置いてある。
「次はキッチン」
キッチンも使いやすそうな広々とした作りだった。板の間からにょっきりシステムキッチンが生えているような見た目は少し違和感があったが。
「トイレ」
ドア自体は古そうな木だったが、中はウオシュレット付きの新しい洋式トイレだった。
「何度もって…ここまで車で往復したの?」
「ああ。会社を辞めてからはほとんど毎日な。おかげで山道も危なげなく運転できるようになったぜ」
誇らしそうに将仁さんが言うので、俺はくすりと笑った。俺の笑顔を見て、将仁さんも微笑む。
「そんな俺に鶴子さんが妥協案を出した。せめて町の近くに住めと言われたんだ。でも俺は嫌だった。緑の多い、桜の綺麗なこの場所に住みたいと言った。それこそが春の理想の場所じゃないかと考えていたからな。そうしたら鶴子さんに本気かと聞かれて、俺は迷いなく頷いた。鶴子さんは分かったと言って、翌日にはこの家の家主と連絡を取ってくれた。その上格安で譲ってもらえるよう、口添えをしてくれたんだ」
将仁さんは長い息を吐き、俺の肩口に顔を埋めた。
「正直助かったよ。知らない土地で一から不動産を探すのは大変だと思っていたし、何よりここなら絶対に春が気に入ると思った」
「将仁さん、そこまでしてくれたなんて…ありがとう。俺、ずっとこの桜を見て育ったから、ここは本当に特別な場所なんだ」
俺はそう言うと庭の桜を見上げた。
子供のころから見てるそれになぜか祝福されているように感じ、俺は瞳を潤ませた。
「そうだ。ちょっと家の中を見て回らないか?もうほとんどリフォームも終わってるんだ」
将仁さんは立ち上がると、俺の手を引いた。
広い居間は和室だったが、右手の扉を開けた寝室は洋室だった。見慣れたソファとどでかいベッドが置いてある。
「次はキッチン」
キッチンも使いやすそうな広々とした作りだった。板の間からにょっきりシステムキッチンが生えているような見た目は少し違和感があったが。
「トイレ」
ドア自体は古そうな木だったが、中はウオシュレット付きの新しい洋式トイレだった。
1
お気に入りに追加
665
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる