春に落ちる恋

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「俺がメールを送ってから到着まで、すごく早かったですよね。将仁さん近くにいたんですか？」
　ずっと疑問に思ったことを俺は聞いた。
「ああ。俺も今日実家に行く予定だったんだ。ちょうど向かっている電車の中でお前のメールを見た」
「そうだったんですか。ご実家に用事があったんですよね？無理して俺と一緒に帰らなくても良かったのに」
　将仁さんがため息をつく。

「母さんから陽子と交際したらどうかとメールがきたんだ」
　将仁さんの言葉に俺の胸が嫌な感じで高鳴る。
「だからちゃんと話そうと思ってさ。他に好きな奴がいるって。そうしたらお前からちょうどメールがきて、駅についてからは全速力で走ったよ。そうして玄関を開けたら、陽子の声が聞こえた」

　将仁さんが悲しそうに笑う。
「陽子、俺のこと諦めてなかったんだな。お前を勝手に呼び出したり、母さんにあんなこと言わせたり…」
　将仁さんが傷ついているのはその表情から痛いくらい分かった。
「こんなことまでされてあいつと幼馴染として付き合っていくつもりはない。もう陽子と連絡は一切取らないよ」
「俺の為なら無理しなくていい」
　将仁さんと久世さんが必要以上に仲良くしているのは嫌だったが、絶縁して欲しいとまでは思っていなかった。古くからの友人をこんな形で失わせてしまって良かったのか、俺は判断がつかなかった。
「いや、俺がそうしたいんだ。もう優先順位を間違えたくない。さっきも言ったが、陽子の為にもその方がいいと思う」
　将仁さんの決心は固いようで、その場で久世さんのメールと電話を着信拒否設定にした。　

　スマホを黒いジーンズのポケットにしまうと、将仁さんが噴水に向かって指をさした。
「ほら、見てみろ」
　噴水が先ほどより高く飛沫をあげ、周りをカラフルなスポットライトが照らした。
　突然始まった幻想的な光景に俺は目が釘付けになった。
「中々綺麗だろ？」
　将仁さんの言葉に頷く。
　周りの人たちもこれが目当てだったようで、「わあ」と歓声をあげている。
　将仁さんが放りだしていた俺の指先を握った。