春に落ちる恋

同窓会12

「京極君にデブって言われて、ダイエット始めて、中学卒業する時には別人みたいに痩せたんだよ、希来里。それで高校で今の旦那さんと出会って、そのまま結婚。旦那さんの転勤で今はロサンゼルスに住んでるの。希来里会うたびに言ってた。あの時京極君にはっきりデブって言われてなかったら、ダイエットもしなかったし、旦那さんとも付き合わなかったと思うって。…希来里、京極君にすごく感謝してたよ。…それから、いじめて悪かったなって言ってた」
「そっか。でもあんな言い方なかったよな」
　京極が俯くと、本条が目を見開いた。
「京極君…何かすごい変わった…」
　京極はその言葉に顔を上げた。
「京極君が、同窓会来るって聞いた時、私、絶対罵倒されると思った。そうされても仕方ないことしたし。…でも私の謝罪をちゃんと受け止めてくれて、希来里の心配までして…。何か小学校の頃と別人みたいに優しい…ってごめん。すごく失礼なこと言ってるよね、私」
　頭を下げる本条に、京極は苦笑すると言った。
「いや、気にしてない」
「よかった。…ねえ、京極君の変化ってもしかして誰か素敵な相手と出会ったせいとか？」
「まあな」
「やっぱり、そうなんだー。京極君なんか雰囲気、柔らかくなったもん。愛されてる余裕感じるし…。結婚秒読み？」
「いや、結婚はないかな。ただ、すごく大事にしたい奴がいる。…他人の痛みを自分の痛みのように感じられる奴でさ。俺がもし優しくなったんだとしたら、100％そいつのおかげ」
　春のことを思い出し、京極の口元が自然と笑みを形作る。そんな京極を本条が頬を染め見つめていた。

　ふいに入口の辺りが騒がしくなり、京極がそちらに目をやる。
　心臓がどくりと嫌な音をたてた。
　久野だった。
　高倉も隣にいて、髪をかきあげている。
　京極がそちらを凝視していたせいか、まともに高倉と目が合う。
　高倉は一瞬目を見開いた後、すぐに笑顔を浮かべると、こちらに近づいてきた。

「えっと、京極君だよね？来てたんだ」
　ストレートの茶色い髪を耳にかけながら、高倉が言う。
「ああ」
　驚いてまともに言葉のでない京極は何とか頷く。
「すっごくかっこよくなっててびっくりした。あっ、でも私、京極君のこと小学校の時から、素敵だなあって思ってて」
　二の腕に伸ばされた手を京極は反射的に払っていた。
　パンと乾いた音がして、高倉が眉を顰める。