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終わりの始まり 下
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「藤崎さん、僕達のこと抱いてよ」
小さな冷蔵庫からビール缶を取り出し、煽っている藤崎は、星の言葉に目を丸くした。
「どうした、いきなり」
「抱いてっ」
二人で藤崎の腰に抱きつく。
そんな二人の腕を藤崎は優しい手つきで剥がすと、頭を撫でた。
「俺は子供を抱く趣味はねえよ」
「僕達子供じゃない」
月が藤崎を睨み、言い返す。
「月…」
藤崎が聞き分けのない月に困ったように、その名前を呼んだ。
「藤崎さん。僕達のこと嫌い?」
月が潤んだ瞳をむけ、藤崎に問う。
星が藤崎の手を取り、自分の胸に押し当てる。
「藤崎さん。僕達にここにいる理由をちょうだいよ」
藤崎が息を飲む。目を瞑ってゆっくり何度か頷くと、口を開いた。
「それがお前たちの望みなんだな?」
星と月は揃って頷いた。
その瞬間、藤崎は二人を同時に抱き寄せた。
それからずっと星と月は藤崎の家で暮らしている。
ここで暮らすのも三年目になった。
ずっと快適で、変わらない時間がここでは流れる。
そう思っていた。
しかし本当に変わらないものなんて、この世の中にはないんじゃないか?
硝と海が来て、去っていったことは、星の心にも大きな影を落とした。
カラ元気の星と明らかに落ち込んでいる月を見て、藤崎は何を思ったのか。
そんな二人を慰めるためか、昨夜の藤崎はいつもより優しく、甘く二人を抱いた。
星も月も泣きながら何度も絶頂を極め、思い出すと顔が赤くなるほど、最高の晩だった。
星はくすりと笑うと冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しグラスに移し、それを飲みながら、寝室に戻ろうとした。
ふとリビングの机の上を見ると、封筒が三つと二人の外出着が並べて置いてあった。
外出着の置き場所は知っていたが、藤崎の許可がある時しか二人は身に着けなかった。
星は嫌な予感を覚えて、テーブルに近づくと、封筒を開けた。
そこに入っていた手紙を読み終えた時、星の全身は細かく震えていた。
手紙には、今までありがとう。この部屋は星と月にやるから、好きに使え。学校に入学するならそれもいいだろう。困ったら、同封してある名刺の弁護士に連絡しろ。と書かれていた。
「もうお前たちは俺がいなくても大丈夫だ」
という一文で手紙は締めくくられていた。
「なんでそう思ったのぉ?」
尋ねても答えてくれる声はない。
ジワリと星の目の縁に涙が盛り上がる。
「星。それ何?」
月の声に振り返る。
月は星が手に持っていた紙をひったくると、それに目を走らせた。
ふっと笑うと、手紙を床に放る。
「結局、セックスしても僕達捨てられちゃったね」
そう言う月の瞳は何も映していないようだった。
「ひっ、酷いよねー。藤崎さんも。お別れも言わせてくれないなんて」
星の言葉にも、月の表情は変わらなかった。
「知らない。僕達のこと、煩わしいと思ったんじゃない?」
星はショックで目の前が真っ暗だった。これからどうすればいいのか、今にも崩れ落ちそうな心境だったが、月の様子の方が気がかりで、何とか言葉を紡いだ。
「ほらっ、月。藤崎さんが短大や専門学校のパンフ置いていってくれたよ。美術系の学校にいって、先生から本格的に絵を習えばいいよ。月のイラストすごいもん。ちゃんと勉強したらプロにだって…」
そう言って月にパンフレットを渡そうとする星の手を、月が払い落した。
叩かれた自らの手を星が呆然と見つめる。
「もう僕のことなんて放っておいて」
そう言って自分の膝に月は顔を埋めた。
星はそんな月を見て、奥歯をぐっと噛みしめると、月の顔を強引に持ち上げその両頬を手で挟んだ。
「放っておかない。放ってなんかおけるもんか」
月を間近に見つめ、星はそう怒鳴った。
「海も硝も出て行っちゃって、藤崎さんにも捨てられた。もう僕達、二人きりの家族なんだよ?月まで居なくなったら僕、一人ぼっちになっちゃう」
目に涙を浮かべながら星が言う。
星と月を家族と呼んだのは藤崎が始まりだったけれど、二人の中にもその意識は根付いていた。
実の親のことは家族と思ったことはなかったが、藤崎に家族と言われた時、星の胸には確かに温かいものが灯ったのだ。
最後の一人の家族まで失いたくない。
星は必死な思いで、無気力な月に訴えた。
「確かに僕じゃ、藤崎さんの代わりにはならないかもしれない。でもずっと月の傍にいるよ。約束する」
そう言うと、星は涙を拭い、月に微笑みかけた。
「着替えて、弁護士さんに電話しよ」
月は痛ましい表情でそれでも何とか頷いた。
二人で服を身に着けると、星が鍵を持って立ち上がった。
封筒の中に入っていた首輪の鍵だった。
「怖い?」
目の前の月に問う。
「怖いよ。でも、星が一緒にいてくれるなら平気」
「…月、大好きだよ」
「僕も星が好き」
二人で一度ギュッとお互いの体を抱きしめると、星が月の背後に立った。
鍵穴を見つけると、星はゆっくりとそこに鍵を差し込み、まわした。
カチリと音がした瞬間、何故か目の前がパッと明るく開けたように星は感じた。
小さな冷蔵庫からビール缶を取り出し、煽っている藤崎は、星の言葉に目を丸くした。
「どうした、いきなり」
「抱いてっ」
二人で藤崎の腰に抱きつく。
そんな二人の腕を藤崎は優しい手つきで剥がすと、頭を撫でた。
「俺は子供を抱く趣味はねえよ」
「僕達子供じゃない」
月が藤崎を睨み、言い返す。
「月…」
藤崎が聞き分けのない月に困ったように、その名前を呼んだ。
「藤崎さん。僕達のこと嫌い?」
月が潤んだ瞳をむけ、藤崎に問う。
星が藤崎の手を取り、自分の胸に押し当てる。
「藤崎さん。僕達にここにいる理由をちょうだいよ」
藤崎が息を飲む。目を瞑ってゆっくり何度か頷くと、口を開いた。
「それがお前たちの望みなんだな?」
星と月は揃って頷いた。
その瞬間、藤崎は二人を同時に抱き寄せた。
それからずっと星と月は藤崎の家で暮らしている。
ここで暮らすのも三年目になった。
ずっと快適で、変わらない時間がここでは流れる。
そう思っていた。
しかし本当に変わらないものなんて、この世の中にはないんじゃないか?
硝と海が来て、去っていったことは、星の心にも大きな影を落とした。
カラ元気の星と明らかに落ち込んでいる月を見て、藤崎は何を思ったのか。
そんな二人を慰めるためか、昨夜の藤崎はいつもより優しく、甘く二人を抱いた。
星も月も泣きながら何度も絶頂を極め、思い出すと顔が赤くなるほど、最高の晩だった。
星はくすりと笑うと冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しグラスに移し、それを飲みながら、寝室に戻ろうとした。
ふとリビングの机の上を見ると、封筒が三つと二人の外出着が並べて置いてあった。
外出着の置き場所は知っていたが、藤崎の許可がある時しか二人は身に着けなかった。
星は嫌な予感を覚えて、テーブルに近づくと、封筒を開けた。
そこに入っていた手紙を読み終えた時、星の全身は細かく震えていた。
手紙には、今までありがとう。この部屋は星と月にやるから、好きに使え。学校に入学するならそれもいいだろう。困ったら、同封してある名刺の弁護士に連絡しろ。と書かれていた。
「もうお前たちは俺がいなくても大丈夫だ」
という一文で手紙は締めくくられていた。
「なんでそう思ったのぉ?」
尋ねても答えてくれる声はない。
ジワリと星の目の縁に涙が盛り上がる。
「星。それ何?」
月の声に振り返る。
月は星が手に持っていた紙をひったくると、それに目を走らせた。
ふっと笑うと、手紙を床に放る。
「結局、セックスしても僕達捨てられちゃったね」
そう言う月の瞳は何も映していないようだった。
「ひっ、酷いよねー。藤崎さんも。お別れも言わせてくれないなんて」
星の言葉にも、月の表情は変わらなかった。
「知らない。僕達のこと、煩わしいと思ったんじゃない?」
星はショックで目の前が真っ暗だった。これからどうすればいいのか、今にも崩れ落ちそうな心境だったが、月の様子の方が気がかりで、何とか言葉を紡いだ。
「ほらっ、月。藤崎さんが短大や専門学校のパンフ置いていってくれたよ。美術系の学校にいって、先生から本格的に絵を習えばいいよ。月のイラストすごいもん。ちゃんと勉強したらプロにだって…」
そう言って月にパンフレットを渡そうとする星の手を、月が払い落した。
叩かれた自らの手を星が呆然と見つめる。
「もう僕のことなんて放っておいて」
そう言って自分の膝に月は顔を埋めた。
星はそんな月を見て、奥歯をぐっと噛みしめると、月の顔を強引に持ち上げその両頬を手で挟んだ。
「放っておかない。放ってなんかおけるもんか」
月を間近に見つめ、星はそう怒鳴った。
「海も硝も出て行っちゃって、藤崎さんにも捨てられた。もう僕達、二人きりの家族なんだよ?月まで居なくなったら僕、一人ぼっちになっちゃう」
目に涙を浮かべながら星が言う。
星と月を家族と呼んだのは藤崎が始まりだったけれど、二人の中にもその意識は根付いていた。
実の親のことは家族と思ったことはなかったが、藤崎に家族と言われた時、星の胸には確かに温かいものが灯ったのだ。
最後の一人の家族まで失いたくない。
星は必死な思いで、無気力な月に訴えた。
「確かに僕じゃ、藤崎さんの代わりにはならないかもしれない。でもずっと月の傍にいるよ。約束する」
そう言うと、星は涙を拭い、月に微笑みかけた。
「着替えて、弁護士さんに電話しよ」
月は痛ましい表情でそれでも何とか頷いた。
二人で服を身に着けると、星が鍵を持って立ち上がった。
封筒の中に入っていた首輪の鍵だった。
「怖い?」
目の前の月に問う。
「怖いよ。でも、星が一緒にいてくれるなら平気」
「…月、大好きだよ」
「僕も星が好き」
二人で一度ギュッとお互いの体を抱きしめると、星が月の背後に立った。
鍵穴を見つけると、星はゆっくりとそこに鍵を差し込み、まわした。
カチリと音がした瞬間、何故か目の前がパッと明るく開けたように星は感じた。
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