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終わりの始まり 上
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目が覚め、星は瞬きを何度か繰り返した。
上半身を起こすと、大きなベッドの上で伸びをする。
隣でまだ夢の中の住人である月の額にキスを落とし、星はベッドから降りた。
昨日の夜は最高だった。
海達が出て行ってから、すっかり元気をなくした月は、好きな絵を描く事さえやめてしまっていた。
星がどんなに笑わせようと、明るく道化のように振舞っても、月の表情は優れない。
そりゃ、僕だって、海が出て行ってしまって寂しいと思わないわけじゃない。でも、僕までいつまでもメソメソしているわけにはいかない。だって僕はお兄ちゃんなんだもの。
星はそう思いながら、ベッドの上の月を見つめた。
藤崎に買われた時、星の第一声は「月を病院に連れてって」だった。
二人の両親は最低の人間だった。
子供の面倒は全くみないうえに、憂さ晴らしのつもりか、度々星たちに暴力を振るった。藤崎に引き合わされた時、母親に一晩中裸で冷たい浴室に閉じこめられていた月は肺炎にかかっていた。
両親は食事を与えていないせいで病的に細くなった星と月を、近所の目を気にして外に出さなかった。
久しぶりに両親以外の人間に会ったと思ったら、それが藤崎だった。
「とても怖い人だから、逆らってはいけない」
両親は二人にそう言い含めて、藤崎の元に送り出した。
怖い人だと聞かされていたせいか、藤崎の第一印はあまりいいものではなかった。雰囲気も高圧的で、目つきも悪い。
俺はどれだけ殴られてもいい。
だから月だけは助けて欲しい。
だが、決死の思いでそう口にした星を見て、藤崎はふいに表情を緩めると、頭をぽんと撫でた。
「病院、連れて行ってくれる?」
「ああ」
そう言うと、藤崎は部下に指示を出し、自らヒューヒューと苦しそうに息をする月を抱きかかえた。
病院で受けた点滴で、月はすぐに回復した。
星も月に付き添い、二人で一週間ほど、ホテルの一室みたいに綺麗な病院の個室で暮らした。
藤崎は、毎日病室を訪れた。宝石のようなスイーツをお供に。
退院するとそのまま二人は、藤崎の家に連れて来られた。
リビングで、服を脱げ。首輪をつけろと言われた時は、ついにやられるんだと覚悟した。
しかし藤崎は二人を抱かなかった。
藤崎は月が絵を描けばすごいな。上手いもんだ。と大げさなくらい褒め、頭を撫でた。
星が藤崎のスーツをハンガーにかければ、ありがとうと微笑みかける。
でもそれだけだ。
「ねえ、僕達、藤崎さんに捨てられちゃうんじゃない?」
リビングで声を潜めて、星は月に言った。
「どうしてそう思うの?」
月は泣きだしそうな表情で星に聞いた。
藤崎の家で暮らし始めて三か月になるが、月は藤崎を盲目的とも思えるほどに慕っていた。
実の父親が屑だったせいで、藤崎に理想の父親像をみているのかもしれない。
藤崎の帰宅時に玄関まで走って行く月の姿は、忠犬そのものだった。
「だって藤崎さん僕達とセックスするために買ったんだろ?ペットってそういう意味だと思うもん。でもそんな素振り一切見せないじゃん」
「藤崎さんは僕達を大切にしようと思って…」
「そんなのいつまでも続かないよ。買ったはいいけど一緒に居る価値のない人間なんて、いつか絶対に煩わしくなってきて、ポイだ」
「ポイされたら僕達どうすればいいの?」
「またあの家に戻る?」
「それだけは嫌だっ」
叫ぶようにそう言った月の口を押え、「しっ」と星が人差し指を立てた。
藤崎の寝室を見るが、起きた気配はない。
「…月は藤崎さんとセックスするのは嫌?」
そう問うと、月の顔に朱が昇った。
「嫌じゃ、ない。この家を出て、あそこに戻る方がずっと嫌だ」
実家での生活を思い出したのか、月が体をぶるっと震わせた。
「じゃあさ…」
星と月は手を繋ぎ、藤崎の部屋をノックした。
部屋の扉を開けた藤崎は、ふあと大きなあくびをした。
「なんだ?こんな夜更けに」
「入っていい?」
星の問いに、藤崎は体をずらすと二人を部屋に通した。
上半身を起こすと、大きなベッドの上で伸びをする。
隣でまだ夢の中の住人である月の額にキスを落とし、星はベッドから降りた。
昨日の夜は最高だった。
海達が出て行ってから、すっかり元気をなくした月は、好きな絵を描く事さえやめてしまっていた。
星がどんなに笑わせようと、明るく道化のように振舞っても、月の表情は優れない。
そりゃ、僕だって、海が出て行ってしまって寂しいと思わないわけじゃない。でも、僕までいつまでもメソメソしているわけにはいかない。だって僕はお兄ちゃんなんだもの。
星はそう思いながら、ベッドの上の月を見つめた。
藤崎に買われた時、星の第一声は「月を病院に連れてって」だった。
二人の両親は最低の人間だった。
子供の面倒は全くみないうえに、憂さ晴らしのつもりか、度々星たちに暴力を振るった。藤崎に引き合わされた時、母親に一晩中裸で冷たい浴室に閉じこめられていた月は肺炎にかかっていた。
両親は食事を与えていないせいで病的に細くなった星と月を、近所の目を気にして外に出さなかった。
久しぶりに両親以外の人間に会ったと思ったら、それが藤崎だった。
「とても怖い人だから、逆らってはいけない」
両親は二人にそう言い含めて、藤崎の元に送り出した。
怖い人だと聞かされていたせいか、藤崎の第一印はあまりいいものではなかった。雰囲気も高圧的で、目つきも悪い。
俺はどれだけ殴られてもいい。
だから月だけは助けて欲しい。
だが、決死の思いでそう口にした星を見て、藤崎はふいに表情を緩めると、頭をぽんと撫でた。
「病院、連れて行ってくれる?」
「ああ」
そう言うと、藤崎は部下に指示を出し、自らヒューヒューと苦しそうに息をする月を抱きかかえた。
病院で受けた点滴で、月はすぐに回復した。
星も月に付き添い、二人で一週間ほど、ホテルの一室みたいに綺麗な病院の個室で暮らした。
藤崎は、毎日病室を訪れた。宝石のようなスイーツをお供に。
退院するとそのまま二人は、藤崎の家に連れて来られた。
リビングで、服を脱げ。首輪をつけろと言われた時は、ついにやられるんだと覚悟した。
しかし藤崎は二人を抱かなかった。
藤崎は月が絵を描けばすごいな。上手いもんだ。と大げさなくらい褒め、頭を撫でた。
星が藤崎のスーツをハンガーにかければ、ありがとうと微笑みかける。
でもそれだけだ。
「ねえ、僕達、藤崎さんに捨てられちゃうんじゃない?」
リビングで声を潜めて、星は月に言った。
「どうしてそう思うの?」
月は泣きだしそうな表情で星に聞いた。
藤崎の家で暮らし始めて三か月になるが、月は藤崎を盲目的とも思えるほどに慕っていた。
実の父親が屑だったせいで、藤崎に理想の父親像をみているのかもしれない。
藤崎の帰宅時に玄関まで走って行く月の姿は、忠犬そのものだった。
「だって藤崎さん僕達とセックスするために買ったんだろ?ペットってそういう意味だと思うもん。でもそんな素振り一切見せないじゃん」
「藤崎さんは僕達を大切にしようと思って…」
「そんなのいつまでも続かないよ。買ったはいいけど一緒に居る価値のない人間なんて、いつか絶対に煩わしくなってきて、ポイだ」
「ポイされたら僕達どうすればいいの?」
「またあの家に戻る?」
「それだけは嫌だっ」
叫ぶようにそう言った月の口を押え、「しっ」と星が人差し指を立てた。
藤崎の寝室を見るが、起きた気配はない。
「…月は藤崎さんとセックスするのは嫌?」
そう問うと、月の顔に朱が昇った。
「嫌じゃ、ない。この家を出て、あそこに戻る方がずっと嫌だ」
実家での生活を思い出したのか、月が体をぶるっと震わせた。
「じゃあさ…」
星と月は手を繋ぎ、藤崎の部屋をノックした。
部屋の扉を開けた藤崎は、ふあと大きなあくびをした。
「なんだ?こんな夜更けに」
「入っていい?」
星の問いに、藤崎は体をずらすと二人を部屋に通した。
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