楽園の在処

まめ太郎

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 夕日に染まった海に、紫の雲がたなびいている。
 沖には二艘の船が浮かび、ヤシの木の影が濃く地面に写る。

 俺は眼前に広がる光景に、目を見開いた。
「ここ…」
 見覚えのある景色だった。
 幼い頃に部屋に貼ってあった、ポストカード。
 それが今、俺の目の前にあった。

「ここからの景色を、海に見せたかったんだ」
「そうだったのか。ありがとうな。この場所に連れて来てくれて」
 ふいに泣きだしそうになり、俺は唇を噛んで堪えた。
「ううん。ああ、海と一緒に見られて本当に嬉しい」
 絶景に気を取られている硝は、俺の心の揺らぎには気付いていないようだった。
 俺はそんな硝の手を取り、指を絡めた。
 硝が弾かれたように俺を見る。
 俺が硝に微笑みかけると、硝も蕩けるように笑った。
 俺達はずいぶん長い時間そこに留まり、二人で同じものを見続けた。
 
 そこからまた少し歩き、木造の赤い屋根の平屋の前で、硝が立ち止まった。
「ここが今日から、俺達の家」
 硝はそう言うと、家の前に咲いている、でかいつつじみたいな白い花をぶちりとちぎり、俺の耳にかけた。
「綺麗」
 それこそ今日は何度も息を飲むほど美しい景色を見てきたというのに、一番感じ入ったように硝が言う。
「馬鹿。お前の方がずっと綺麗じゃないか」
 俺も同じように花をむしると、硝の耳にかけてやる。
 硝は嬉しそうに口元を緩めると、扉に手を掛けた。
「そう言えば、お前なんでフィリップなんて呼ばれてたんだ?」
 先ほどの少年とのやりとりを思い出し、尋ねると硝が振り返る。
「ああ、ここで俺フィリップって偽名を使ってたんだ。俺の本当の名前はね…」
 その言葉を聞き終えた俺は、楽園に連れて来てくれた奴の名を、微笑みながらそっと口にした。

 終
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