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デパートの中でも大変だった。以前より顔の知られた硝は、客からサインや写真を求められ、中には騒動を知っている奴も混ざっていて、「何で死のうとしたんですか?」なんて無遠慮に聞いてくる始末だった。
電車で移動するのはまずいと、タクシーを呼び止め、二人で乗り込む。
色々話すべきことはあったが、タクシーの中では俺達は無言を貫き通した。
少し前まで一緒に暮らしていたアパートの前で降りると、部屋に入る。
「意外と綺麗じゃん」
アパートの部屋は俺が出て行った時のままだった。
「仕事忙しくて、帰る暇なかったし」
硝と俺は壁に背中を預け、隣同士に座った。
「仕事、本当に良かったのかよ」
「うん。元から半年で辞めるつもりだったんだ」
「でも、お前モデルの仕事楽しいって」
「やったことないことをするのは何でも楽しい。モデルじゃなくたっていいんだ。三枝さんは悪い人じゃなかったけど、私生活への干渉がひどかったから、長くは一緒に働けないって、思っていたしね」
硝がため息をつく。
「三枝さんが一番やっちゃいけなかったのは、俺と海を離そうとしたことだよ。あれさえなければ、もうちょっといいお別れができたはずなんだけど」
そう言うと、硝がじとっと俺を見た。
「海もさあ、いくらお金積まれたからって、酷くない?簡単に俺から離れて」
「そりゃ、悪かったって…つーか、なんでお前がそんなこと知ってるんだよ?」
「藤崎さんとこ行ったら、ヒントくれた。今、お前と海が離れて一番喜びそうな奴は誰だって」
「あいつ」
「でも俺、藤崎さんには本当に感謝してる。だって海と引き合わせてくれたんだから」
硝はふっと笑って言った。
それから急に俯くと、俺の右手をぎゅっと握った。
「ねえ、海。まだ藤崎さんのこと好き?」
俺は長い息を吐いた。
「確かに俺も藤崎さんには感謝してる部分はあるし、まあ、惚れてんのかなって思ってたときもあったよ」
そう言うと、硝ががばっと顔を上げた。
電車で移動するのはまずいと、タクシーを呼び止め、二人で乗り込む。
色々話すべきことはあったが、タクシーの中では俺達は無言を貫き通した。
少し前まで一緒に暮らしていたアパートの前で降りると、部屋に入る。
「意外と綺麗じゃん」
アパートの部屋は俺が出て行った時のままだった。
「仕事忙しくて、帰る暇なかったし」
硝と俺は壁に背中を預け、隣同士に座った。
「仕事、本当に良かったのかよ」
「うん。元から半年で辞めるつもりだったんだ」
「でも、お前モデルの仕事楽しいって」
「やったことないことをするのは何でも楽しい。モデルじゃなくたっていいんだ。三枝さんは悪い人じゃなかったけど、私生活への干渉がひどかったから、長くは一緒に働けないって、思っていたしね」
硝がため息をつく。
「三枝さんが一番やっちゃいけなかったのは、俺と海を離そうとしたことだよ。あれさえなければ、もうちょっといいお別れができたはずなんだけど」
そう言うと、硝がじとっと俺を見た。
「海もさあ、いくらお金積まれたからって、酷くない?簡単に俺から離れて」
「そりゃ、悪かったって…つーか、なんでお前がそんなこと知ってるんだよ?」
「藤崎さんとこ行ったら、ヒントくれた。今、お前と海が離れて一番喜びそうな奴は誰だって」
「あいつ」
「でも俺、藤崎さんには本当に感謝してる。だって海と引き合わせてくれたんだから」
硝はふっと笑って言った。
それから急に俯くと、俺の右手をぎゅっと握った。
「ねえ、海。まだ藤崎さんのこと好き?」
俺は長い息を吐いた。
「確かに俺も藤崎さんには感謝してる部分はあるし、まあ、惚れてんのかなって思ってたときもあったよ」
そう言うと、硝ががばっと顔を上げた。
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